横浜国立大学中川 克志 (聴覚文化論)
本発表では、ともに1912年生まれで今年生誕100年を迎えるアメリカの実験音楽家ジョン・ケージ(John Cage)と前衛芸術家ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock)をとりあげ、とくに二人の「メディア」への距離を測定することで、1950年前後アメリカのアヴァンギャルド芸術が持っていた「メディア」概念について考察する。
同世代のふたりには実はあまり接点はなかった。アヴァンギャルドな芸術家として脚光を浴びるようになったのは、ポロックが先でケージは後からだったし、ポロックはケージにほとんど言及しなかったし、ケージはアルコール漬けのポロックを嫌っていた。実験音楽家ケージと比較する美術家としては、個人的な親交関係もあったマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)やロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg)をあげるのが普通だろう。
とはいえしかし、ケージとポロックを比較することで得られる知見がある。
まず、二人を考察することで1950年代のアメリカのアヴァンギャルド芸術のなかにジャンルの溶解—音楽と美術—というトピックを見出すことができるのではないか。二人は後続世代からは、ともにメディア—絵画のメディアとしてのキャンバスと音楽のメディアとしての音響—の本質的な特徴を追及した存在として、似たような位置にある先行世代として受容されたからである。そこでは何らかの脱領域的なメディア理解が生まれたのではないだろうか。
また、記録メディアに対する二人の距離感を測定することで、1950年代以降に爆発的に普及することになった様々なメディアに対するアヴァンギャルド芸術の距離感をあぶり出すことができるかもしれない。取り上げるべきは、絵画の記録メディアとしてのキャンバス、音楽の記録メディアとしてのスコア、そして音響磁気録音テクノロジーである。
このように様々な「メディア」との距離を測定することで、50年前後の前衛の一側面を明らかにすることを目指す。