1. 全国大会
  2. 第43回 全国大会
  3. <第1日> 10月16日(土)
  4. 第4室(2号館2階 221教室)
  5. 2.F. Scott FitzgeraldのThe Great Gatsby における「緑」について

2.F. Scott FitzgeraldのThe Great Gatsby における「緑」について

泉澤 みゆき 梅光学院大学(院)


The Great Gatsby の中ではgreenという形容詞が17回使用されている。特に語り手Nick がGatsbyを初めて見かける場面の、暗い海に光る” a single green light”が極めて印象的である。伝記作家Andrew Turnbullの記述によれば、Fitzgeraldが「緑」という色にこだわりのある作家だったといえる。本発表においては作者が「緑」にどのような意味を込めているのかを考察する。

はじめに、作品中には可視的な緑と不可視的な緑があることを指摘したい。例えばGatsbyの車の内装は”a sort of green leather conservatory”のようであると言っている。Nickが学生時代に列車で中西部へと帰省する際に手にしていたのは、”the long green ticket”であり、また前述の”a single green light”は可視的な緑である。一方で”green light”には、可視的な”a (single) green light”のほかに、作品中には不可視の、隠蔽された”the green light”が存在することを指摘したい。

まずこの不可視の「緑の光」は鉄道王James Jerome Hill(1838-1916)と結びつく。Hillは作者Fitzgeraldの故郷ミネソタ州セントポールの名士であり、Fitzgeraldと同じアイルランド系の成功者である。不可視の緑の光はHillの敷いた線路の上を走り、地理的終着地点セントポールへとたどり着き、さらにHillに向けられたFitzgeraldの視線によって、想像的空間アイルランドへと伸びている。

一方で、第9章の”a fresh, green breast of the new world”という箇所は、Nickの心象に浮かび上がる緑であるが、James JoyceのUlysses(1922)第1挿話の”White breast of the dim sea.”という言い回しが反響しているようにも思われる。

FitzgeraldはJames Joyceを崇拝していた作家であり、語り手NickがFitzgeraldの分身であるならば、FitzgeraldのUlysses読書体験はNickに受け継がれているはずであり、この視点からThe Great Gatsbyの導入部に着目したい。

本発表では、不可視の緑の意味するところがHill同様、Joyceの存在を通じて、アイルランドへと結び付けられていることを示し、ひいてはThe Great GatsbyがFitzgerald自身のアイルランド系アメリカ人としてのアイデンティティを強く意識した作品であることを、明らかにする。