水と川と海と − エスニックの地平から
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「海が歴史だ」。これは、カリブの紺碧の海に民族の悲惨な歴史を読み取り、その海を「灰色の納骨堂」と呼んだ西インド諸島出身の詩人Derek Walcottの言葉である。Walcottに倣って、少数民族の文学に描かれた水と川と海に民族の歴史を読み込んだ場合、果たしてそこに浮き彫りにされるものは何か。今回は、カリブ系移民の文学、アフリカ系アメリカ文学、先住民の文学のなかに、その点を探ってみたい。尚、副題の「エスニック」は、民族の連帯と抵抗という意味で敢えて用いた。
風呂本 惇子
カリブ系移民、特にハイチから北米に渡って英語で書く作家が故郷の歴史を描くときに、川や滝や海の水が作品のなかで無視できない機能を担うことがある。今回はEdwidge DanticatのThe Farming of Bones (1998)と、Myriam Chancyの Spirit of Haiti (2003)とを取り上げ、西アフリカ起源の信仰や中間航路の記憶を視野に入れながら、激動の歴史の痕跡に向かいあう彼女たちの姿勢について話したい。
鵜殿 えりか
Toni Morrisonの Paradise における水のイメージについて考察する。作家の初期作品から水は重要な役割を果たしてきた。Paradise において、歴史、人種/エスニシティ、セクシュアリティが、水を媒介して遭遇するさまを検証したい。
林 千恵子
極寒の地に暮らす人々、例えばアラスカ先住民にとって、生きるとは冬を生き抜くことを意味する。夏季の漁獲は厳冬期を乗り越える命の綱であり、サーモンを育む川、鯨の生きる海は、感傷を許さない、生きる場であった。本ワークショップでは、トリンギットのNora Dauenhauerと、アサバスカンのVelma Wallis、Jan Harper Haines等の作品を取り上げる。彼女たちが想起させる海や川と人の関係性が、伝統的な生活様式と価値が大きく変容する現代にどのようなことを教えるのかを明らかにしたい。