近畿大学 辻 和彦
作家マーク・トウェインは、中西部のミズーリ州の農村地出身のため、幼年時代から「猫、馬、豚はおろか、蚊、蝿、蟻、魚、蛙、蛇、蝙蝠、蜂」に囲まれて生まれ育った。彼が全米で注目を集めた短篇「ジム・スマイリーと彼の飛び蛙」(1865年)でメジャーデビューを果たしたのは、決して偶然ではなく、この中に登場する「蛙、馬、甲虫」などの生物への注視が当時としても興味深いものであったことが推測される。それらの表象は、やはり幼い頃からの体験に由来するものであろう。
彼はその後も自作の中で積極的に「生き物」を登場させた。彼が世界中を旅するにつれ、「駱駝、闘牛、白象、ツェツェ蝿」など、多様な生き物が彼の作品で描かれることになる。また私生活においては、彼の子供達が幼い間は、たくさんの猫を自宅で飼っていた。だがその後の彼の人生並びに作品を分析する際に、特に「ダーウィニズム」の関連において浮上するのは、むしろ「犬」である。トウェインは時に「犬」をセンチメンタリズムの手法で描き、また時に「人間」への強烈な批判者として作品に登場させた。
本発表ではこうした「犬」に焦点をあて、トウェインの動物に対する考え方、もしくはその生物観に迫りたい。