1. 全国大会
  2. 第53回 全国大会
  3. <第2日> 10月5日(日)
  4. シンポジアムⅡ (7号館3階D30番教室)
  5. Lolitaとそのアダプテーション

Lolitaとそのアダプテーション

広島大学 的場 いづみ

 

Vladimir Nabokovと映画との関係については、Stanley Kubrick監督によるLolitaの映画脚本のクレジットがNabokov自身であることが有名であるが、Nabokovの映画への関心は少なくとも1920年代まで遡ることができる。Nabokovは妻と頻繁に映画を観に行っていただけでなく、エキストラとして映画に出演したことも知られている。映画への関心は小説にも反映され、処女作Машенька(Mary)にも映画への言及は散見される。また、初期作品のなかではКамера Обскура(Laughter in the Dark)で映画は題材としても重要な位置を占める。

Nabokovと映画についての研究では、The Annotated Lolitaで有名なAlfred Appel Jr.がNabokov’s Dark CinemaにおいてNabokovとフィルム・ノワールとの関連を論じている。また、Babara WyllieはNabokovが実際にその映画を観たかどうかという問題をいったん棚上げた上で、Nabokovの初期から後期にいたる小説に見られる映画的な工夫を指摘する。とは言え、Nabokovと映画との関連の言及の多くがLolitaに集まっているのは間違いない。

Lolitaの映画化にあたって書かれたNabokovの脚本草稿はKubrickからの修正提案を受けて書き直される。しかし、実際に1962年に上映されたKubrickの映画はクレジットこそNabokov脚本となっているものの、実際にはNabokovの脚本とは大きく異なるものだった。その後、Nabokovは脚本の草稿に再度手を入れて短くし、1974年に脚本は出版される。つまりKubrick監督映画とNabokovによる脚本はまったく別のアダプテーションであり、Adrian Lyne監督による映画 Lolita (1997)を加えると小説 Lolitaの映画関連のアダプテーションは三つ存在する。

長年映画に関心を寄せてきたNabokovが映画脚本を書く場合、自身が映画的表現であると考えるものを脚本に盛り込むのだろうが、実際の映画監督であるKubrickはNabokovの考える映画的表現をあまり採用しなかった。本発表ではLolitaの小説と三つのアダプテーションを比較し、Nabokovが映画的表現と考えたものと実際の映画表現のズレを考えたい。