広島大学 大地 真介
William Faulknerと映画の関係については、主にFaulknerのハリウッドにおける脚本書きの仕事や彼の小説の映画化に関して研究されてきており、Faulknerの小説が映画作家たちに多大な影響を及ぼしていることは意外に知られていない。Orson WellesとHerman J. Mankiewiczは、Faulknerの Absalom, Absalom!を下敷きにして Citizen Kaneの脚本を執筆し、また、Jean-Luc Godardは、 À bout de souffleを筆頭に多くの映画でFaulkner作品にオマージュを捧げている。
日本ウィリアム・フォークナー協会の学会誌やシンポジアムにおいて筆者は、今日世界で最も著名な映画作家の部類に入るQuentin TarantinoとAlejandro González Iñárrituが、Faulknerの小説の技法とテーマを巧みに応用していることを指摘した。その後も、Tarantinoは Kill Bill: Vol. 1 & 2 (2003-04)、 Death Proof (2007)、 Inglourious Basterds (2009)、Django Unchained (2012)を、Iñárrituは Biutiful (2010)を発表し、主要な映画祭等で高い評価を得ている。また、Iñárrituと共同で脚本を書いていたGuillermo Arriagaは、Tommy Lee Jonesが監督したThe Three Burials of Melquiades Estrada (2005)でカンヌ国際映画祭脚本賞に輝き、2008年には監督業にも進出して自作脚本によるThe Burning Plainを発表しており、同作品は、後にアカデミー賞受賞女優となるJennifer Lawrenceにヴェネチア国際映画祭新人俳優賞をもたらした。Faulknerからの影響をIñárrituとともに公言するArriagaは、「私は映画よりも文学の影響を受けており、私にとって特に重要なのはFaulknerだ」とまで言っている。
本発表では、Tarantino、Iñárritu、Arriagaの上記の映画において、Faulknerの小説の何が借用され、何が改変されているか、また、それらの映画とFaulkner作品の共通点と相違点が何を意味するかということを明らかにし、アメリカ文学を代表する作家の一人Faulknerの小説がジャンルも時代も超えて今日世界の映画界に与えている影響について深く考察してみたい。