松本 明美 関西福祉科学大学
Emily Dickinsonにとって「白」という色は、“A solemn thing—it was—I said— / A Woman—white—to be—”(307番)で始まる詩が示すように、象徴的かつ神秘的な意味を持つ。それはDickinson が実際、白いドレスを身にまとっていたという伝記的事実と無関係ではない。しかしながらDickinsonの「白」は多彩なイメジを喚起するため、詩によっては様々な解釈を許容する。
「白」を意識した作家や詩人はDickinsonだけではない。おそらく大方の意見として、Herman MelvilleのMoby-Dick を即座に思い浮かべるだろう。他に、「白人」対「黒人」という人種問題をテーマにした小説もある。詩人に関しては、Wallace Stevensの詩、“The Snow Man”が代表的である。この詩では、人が真っ白な雪景色に目を凝らし、沈黙の中で耳を澄ます様子が描かれている。さらに雪の白さが無化され、「無(“nothing”)」そのものを凝視する行為に発展していく。言い換えれば「無」というキャンバスに、想像力という色や線を描き足すことになる。この「無」のキャンバスに絵を完成させるというモチーフは、Stevensの“Add This to Rhetoric”という題の詩に見られる。この詩は単に、1枚の絵を完成させるまでの過程を呈示しているのではない。詩の中の人物は、「感覚」を研ぎ澄まして描いている対象に挑もうと試みるが、絵とは関連のない「言葉」や「音楽」という言葉が唐突に出てくるため、一層複雑なStevensの芸術的思考が露呈されている。
Dickinsonの有名な詩、“This was a Poet—”(446番)では、詩人の条件は絵の意味を「明らかにする人(“the Discloser”)」となっている。さらに別の詩、“A Spider sewed at Night”(1163番)には、「白い孤(“an Arc of White”)」の上で夜に巣を織り上げる「蜘蛛」の様子が描かれている。この詩では、白く小汚い蜘蛛の巣が「不滅」という高次元のものに変容する。別の詩“The Spider as an Artist”(1373番)の中でDickinsonは、「蜘蛛」は「芸術家」だと明言している。513番の詩の「蜘蛛」は神聖な「白い孤」を織り上げるための「真珠の糸(“Yarn of Pearl”)」を保持している。 Dickinsonが好んで使う“Pearl”は、白さの象徴でもある。
DickinsonとStevensに共通している考え方は、「白」に秘められた無限の可能性である。つまり詩人は白い紙に、画家は白いキャンバスに思いを込める。Dickinsonが“‘Nothing’ is the force / That renovates the World—”(1611番)と主張するように、詩人や画家は沈思黙考を繰り返しながら想像力を駆使して、「無」から独自の新しい「世界」を構築する。DickinsonとStevensが自分の詩に絵画的な視点や用語を取り入れたのは、「無」の状態から高度な芸術を創造する過程を具体的に示そうとしたからである。両者の“white”という言葉から連想されるイメジの根底には、詩という芸術への深い愛情が込められている。