ポスト・カーソンと環境正義の文学
『沈黙の春』以降環境文学は、都市の汚染や地域の開発がもたらす具体的な環境テーマと人間の関係を前景化する新たな段階に入り、語りの質や批評的態度にも、自然領域への関心から、環境正義テーマへと焦点が拡大または移行してきた。様々な汚染と人種、ジェンダー、地域の関係や政治性を作家はどのように文学化し、このジャンルにどのような新しい風をもたらしているだろうか。地域や人種など4つの側面から、最近の環境文学の多様性と可能性を考察する。
- 「Silent Spring からFruit of the Orchard: Environmental Justice in East Texas まで」では、浅井千晶が、Silent Spring が多くの読者を獲得した理由の一つとなったナラティヴの技法に触れた後、Silent Spring からTammy Cromer-Campbellの Fruit of the Orchard にいたる環境正義文学の系譜を概観し、Sandra Steingraberの Living Downstream: An Ecologist Looks at Cancer and the Environment を例に、科学的客観性に基づく環境正義文学の可能性を検証する。
- 「環境アクティヴィズム・チカーナ文学・環境正義」では、松永京子が、Ana Castillo、Helena Maria Viramontesなどのチカーナ作家の作品が、人種、ジェンダー、階級などの問題が汚染の言説と深く関わることを示してきたこと、特にCastilloの So Far From God が新しい環境正義運動のあり方として、女性主導の環境アクティヴィズムとエコ・コミュニティーを呈示していることを検証する。
- 「ハリケーン・カトリーナと自然災害から見る都市の環境正義」では、中垣恒太郎が、2005年のハリケーン・カトリーナをめぐる問題点(政府の対応の遅れなど)を検証し、自然災害が都市機能の中でそれまでは不可視とされていた人種や貧困、廃除の構図などを顕在化させることを、1900年のハリケーンを扱ったErik Larsonによる Isaac’s Storm を援用しつつ都市と環境正義の観点から分析を試みる。
- 「ネイティヴ・アメリカンと環境正義」では、横田由理が、保留地内外で現在ネイティヴ・アメリカンが直面する法的経済的な問題(資源の統制、土地所有権、水利権など)を、歴史的な視点および共生の自然観に基づく環境思想との関係から考察し、Silko、Linda Hogan、Simon Ortizの作品にみられる環境正義とストーリーの関わりの明確化を試みる。