1. 全国大会
  2. 第49回 全国大会
  3. <第1日> 10月9日(土)
  4. 第1室(11号館 6階 1161教室)
  5. 4.Emily Dickinsonと宗教

4.Emily Dickinsonと宗教

小泉由美子 茨城大学

 

Emily Dickinsonの詩作品はこれまで「宗教詩」として論じられることはあまりなかった。「私は異端者」と語った詩人の言葉を文字通りに解釈し,特に1970年代以降,Dickinsonを直接的に宗教と結びつけ論じた論文は多くはない。その中で,DickinsonをGeorge Herbertと並び称される宗教詩人であると位置付けたDorothy Huff Oberhausの論文(1987) は異彩を放っている。またThe Regenerate Lyric: Theology and Innovation in American Poetry (1993) において,Elisa NewはDickinsonをEmersonの伝統に属する詩人とする当時の大方の見方を修正し,17世紀の祈祷詩の伝統に属する詩人として捉え直している。

21世紀に入り,Dickinsonと宗教というテーマはさらに多くの批評家の注目を集めている。2001年に出版された伝記のなかで,Alfred Habeggerは「Dickinsonにおいて批評家が犯す大きな過ちの一つは,詩人を1850年代の宗教潮流から引き離すことである」と語り,宗教的要素を軽視しがちであったそれまでの批評の問題点を端的に指摘している。Jane Donahue Eberwein (2004) もまた19世紀ニューイングランドの歴史的コンテクストにDickinsonを再配置することの意義を強調している。このテーマがDickinson研究の主要なテーマの一つとなっているという現状を踏まえ,本発表ではDickinsonの宗教詩の分析を通し彼女とピューリタニズムを結ぶ縦糸を探究したい。

Dickinsonが当時の福音派の教義に対し懐疑的であったことはよく知られた事実である。一方Dickinsonが「祈りの詩人」であったことはあまり知られていない。また多くの批評家は,1850年代以降Dickinsonは宗教に興味を失ったと見ている。しかしながらElizabeth Holland宛の手紙 (1853〜1886) を読むと,宗教詩人Dickinsonの一端を垣間見ることができる。Dickinsonの詩と手紙を読んで総合的に判断すると,宗教に対する詩人の関心は生涯続いていたと考えるのが自然であろう。

科学の時代に青年期を迎え,Dickinsonは自分の問いに答えを提供しうる科学の力を十分認識していたが,科学で全ての謎を解くことができるとは思っていなかったようだ。例えば “ ‘Faith’ is a fine invention” (Fr 202) では,信仰と科学を両天秤に掛け,緊急時には「顕微鏡」のほうが信頼できると語りながらも,信仰の力によってしか見えないものがこの世に存在することも同時に暗示している。手紙のなかでDickinsonは“One”という言葉が内包する神秘は信仰の力によってしか解明できないと明確に書いている。

本発表では,Dickinsonの詩における神学と詩学の相関関係を探りながら,詩人がどの様に伝統を継承し,刷新していったかを具体的詩作品のなかに検証する。