1. 全国大会
  2. 第49回 全国大会
  3. <第2日> 10月10日(日)
  4. ワークショップⅢ(現代批評研究グループ)(11号館 5階 1151教室)

ワークショップⅢ(現代批評研究グループ)(11号館 5階 1151教室)

バーバラ・ジョンソンの遺産と21世紀

責任者・発表者
成蹊大学 下河辺美知子
発表者
東京大学 阿部 公彦
お茶の水女子大学 竹村 和子
慶應義塾大学 巽  孝之



2009年8月27日に亡くなった故バーバラ・ジョンソン(元ハーヴァード大学教授)を現代批評の偉大なる先導者とみなし,アメリカ文学研究におよぼした彼女の業績・足跡を評価する。今や現代批評の聖典となった『批評的差異』(1980)『差異の世界』(1987)を発表し,1980年代のイェール学派脱構築批評の中核の一人として注目をあびたバーバラ・ジョンソンは,日本の英米文学研究にも大きなインパクトを与えてきた。初期作品から最晩年の『人間と物』(2009)『モーセと多文化主義』(2010)といった著作を通じて,バーバラ・ジョンソンが我々に遺したメッセージを読み解き,彼女が一貫して追求してきた「差異」という問題を, 21世紀の今,我々はどのように受容すべきであるかを検討したい。

阿部は現代英米詩を専攻する立場にあるが,バーバラ・ジョンソンとの出会いを「懐かしく振り返る」と言う。4人の中では一番若い世代の人間にとってさえ,バーバラ・ジョンソンの著作は古典として回顧的に言及される中,阿部は言う。「近代批評が構造的に持っていた『男の子っぷり』と格闘しながら,脱構築的な環境の下,そうした構造をむしろ逆手にとって鋭利な言葉を繰り出していったかについてしみじみ思いをはせる」予定である。

竹村はジェンダーに主眼をおいて現代批評の場で声をあげてきている。バーバラ・ジョンソンの仕事を「セクシュアリティと母性」の点から取り上げ,そこに「死」という概念をからめ,「バーバラ・ジョンソンをディコンストラクショニストの系譜の中で考える」予定である。また,竹村はジュディス・バトラーの仕事を日本に紹介しているが,そのバトラーと晩年のバーバラ・ジョンソンは毎日のようにメールをとりかわしていたという。ジュディス・バトラーとの関係性の中からバーバラ・ジョンソンの遺したものについて考えていく。

巽は1980年代から脱構築批評を日本のアカデミズムに紹介してきた立場から,バーバラ・ジョンソンの仕事を総括して「読むことの墓碑銘」とよぶ。初期の著作から30年後の『人間と物』(2009)では,「『かたちへの偏愛』を動物から人間を区別する決定的条件に想定し,墓碑銘の機能こそが文学全般の達成目標と見なすに至っている」という洞察のもと,「いま,再び『読むこと』の意義を問い直す」予定である。

下河辺はバーバラ・ジョンソンの最期について報告をする。2010年3月26日ハーバード大学でおこなわれたバーバラ・ジョンソンメモリアルのプログラムを紹介し,ショシャナ・フェルマンとバーバラ・ジョンソンの関係を確認する。また,遺著となった『モーセと多文化主義』とともに我々に遺されたものは何だったのかを考えたい。

4人の報告者は研究者としてのキャリアの中で,バーバラ・ジョンソンの仕事に触発され,研究対象のみならず,英米文学研究という行為そのものについて彼女の仕事から大きな影響を受けてきた。1970年後半から2009年にいたるまでのバーバラ・ジョンソンの仕事の変遷によりそいつつ,一方では,一貫して彼女が追い続けてきた問題を各々の専門の立場から浮き上がらせて,21世紀の人文科学研究者の任務に思いを馳せてみたい。