藤田 淳志 愛知学院大学
本発表ではGeoffrey NaufftsによるNext Fall(2009)を論じる。この作品を1980年代後半から90年代のエイズをテーマとした一連の演劇作品の延長線上にあると捉え、アメリカ演劇において重要なテーマであり続けるホモセクシュアリティがポストエイズの時代にどの様に描かれているのか、これからどのように描かれていくことになるかを探る。また代表的なエイズ演劇や作品中で言及されるThornton WilderのOur Townにも触れ、比較を試みる。
Naufftsは現在1986年に結成され多くの俳優や劇作家らを輩出する劇団Naked Angelsの芸術監督を務めている。しかし劇作家としてより映画やテレビの俳優としてその名を知られ、出版されている作品はこの他に短編が一つあるだけである。Next Fallは2009年オフ・ブロードウェイでオープンし、その後Elton Johnらのプロデュースによりブロードウェイに上がった。劇評も良くトニー賞2部門にノミネートされている。
Next Fallの主人公は見た目も人生もぱっとしない45歳のAdamと、ハンサムで俳優志望の30歳のLukeのゲイカップルである。2人のさらに大きな違いは、Lukeは熱心なキリスト教徒で、Adamは無神論者であることだ。Lukeは同性愛が罪であり、神を信じなければ天国へ行けないと考え、Adamは2人の愛の証であるはずのセックスの後に許しを乞うために祈るLukeに不満を感じる。
物語はLukeが交通事故に遭い運ばれた病院の待合室で幕を開ける。その後2人の5年前の出会いから前日までの過去と、病院での現在がシーンごとにほぼ交互に描かれていく。過去のシーンではAdamとLukeがカップルとしての関係を築く過程が宗教観の違いを中心にユーモラスに描かれる。現在の病院では深刻な状態のLukeを待つ、AdamとLukeの両親、そして駆けつけた2人の友人とのやりとりが、こちらもしばしばユーモラスに描かれる。しかしLukeは両親にAdamとの関係ばかりか自身のセクシュアリティも告げていないため、Adamは危篤状態のLukeに会うこともできない。
New York TimesのPatrick HealyはNext Fallを含め同時期にニューヨークで公開される7つのゲイプレイの特徴を、その政治性よりも同性愛を普遍的なものとして示すことにあると述べている("New Gay Theater Has More Love Than Politics")。確かに本作では同性愛に対する重要なテーマ (キリスト教的価値観、パートナーを見舞う権利、カムアウトとホモフォビアなど)が描かれてはいるものの、これらは声高に叫ばれておらず押し付けがましくない。劇全体はコメディで笑いに包まれ、幅広いオーディエンスに受け入れられるよう、どの登場人物の視点にも共感できるよう配慮されている。この作品の「トゲのなさ」はゲイの養子縁組について扱ったNaufftsの短編、Baby Stepsにも言えることであり、90年代までの政治的主張のはっきりしたエイズ演劇と比較すると違いは顕著である。本発表ではNext Fallの政治性の有無を読み解きながらポストエイズのゲイ演劇について考えたい。