1. 全国大会
  2. 第50回 全国大会
  3. <第1日> 10月8日(土)
  4. 第1室(A303教室)
  5. 2.The House of the Seven Gablesにみられる空気の停滞と流動のモチーフ

2.The House of the Seven Gablesにみられる空気の停滞と流動のモチーフ

田島 優子 九州大学(院)

 

Nathaniel HawthorneのThe House of the Seven Gablesは、これまでPhoebeとHolgraveの婚約を契機としたPyncheonとMaule両家の和解、貴族社会に代わるデモクラシーの台頭、Hepzibahのセントショップ経営に投影される作家Hawthorne自身の資本主義社会への参入といった観点から論じられることが多かったように思われる。Pyncheon家の屋敷がHepzibahを始めとする登場人物を社会から隔絶していることは明白であるが、本発表において注目したいのは外界と隔てられた「家」そのものというよりも、むしろ家と外界との「境界」である。窓や扉の開閉によってもたらされる空気の流れ、あるいは外気の屋内への侵入のイメージは、この作品の随所に見られる。例えば再三にわたり言及される屋敷内の埃臭さやかび臭さは、窓を開けて室内の換気をするという習慣がHepzibahになかったということを含意している。屋敷に居候することになるPhoebeは、Hepzibahとは対照的に家庭的資質を備えており、家具の間取りを変えたりHepzibahや病人のCliffordを屋外へ連れ出したりすることで家庭内に健康で清浄な空気を補給する点でも才覚をふるっている。また作品冒頭で金銭を稼ぐためにセントショップを開く場面では、Hepzibahは客の少年が店のドア(つまり外気の入り口)を閉め忘れて出て行ったことに不快感を覚える。その一方で、屈辱を感じながらも成し遂げた開店への彼女の歓喜は、「単調な隠遁生活のあとにやってきた清浄な外気の爽快な息吹き」と表現される。また屋敷に招かれた町の人々が椅子に座ったまま死亡しているPyncheon大佐を発見する場面では、奇妙にも突風によって部屋の扉が開け放たれる。この直後に語り手は死神がPyncheon家に侵入してきたことを告げるのだが、これはまるで前述の突風こそが死神の訪れであったかのような印象を与えている。このように、The House of the Seven Gablesにおいてプロットの転換点となるような重要な場面の多くは、屋敷内で長い間滞留していた空気が、開け放たれた窓やドアを通して流れ始めるという比喩によって描かれていくのである。

本発表では、The House of the Seven Gablesに示される物理的な空気の流れに着目し、Pyncheon一族の人々が、気流や香り、ドアの開閉といった空気の動きに常に目を配り、それを時には血筋を守る手段としてそれぞれが独自の方法で利用してきたことを明らかにする。そして作家Hawthorneが空気の循環をどのようなものとして捉え、作中に組み込んでいたのかを考察していくことによって、この作品に関する新たな解釈を導き出していきたい。