1. 全国大会
  2. 第51回 全国大会
  3. <第1日> 10月13日(土)
  4. 第4室(全学教育棟本館C15講義室)
  5. 3.“Red Leaves”におけるニューオーリンズ、ブラ・クペ、インディアン

3.“Red Leaves”におけるニューオーリンズ、ブラ・クペ、インディアン

木下 裕太 首都大学東京(院)

 

1930年にSaturday Evening Post に掲載された“Red Leaves”は、William Faulknerが名実ともに小説家として初めて評価を得た作品のひとつである。その中に登場する腕を負傷しながら沼へと逃亡し斧で腕を切断することを懇願する名前のない黒人奴隷は、ニューオーリンズ地域に以前から伝わる腕を切り落とされ沼へと逃亡するアフリカの王子Bras-Coupé(黒人奴隷)のイメージと重なるのではないだろうか。Faulknerが描く以前からこのイメージはGeorge Washington Cable やLafcadio Hearnなどニューオーリンズと関係が深い作家が小説やエッセイのなかで好んで描き、さらにはこのイメージはニューオーリンズに関わる現代作品にまで使用されているものである。これにはFaulknerが1925年からニューオーリンズに移り住んだことが大きく影響すると考える。

しかしながらFaulknerは、それまでにBras-Coupéが描かれてきた場合のような白人から逃亡する黒人奴隷という関係をインディアンと黒人の主従関係にずらして描いている。Faulkner作品におけるインディアンは、本作品にとってのみ重要な意味を持つわけではなく、のちの短編集Collected Stories of William Faulknerにおいて“The Wilderness”のセクションとして他のインディアンに関連する話と共に出版されたことや、Absalom, Absalom! においてThomas Sutpenが本作品と深く関わるインディアンから手に入れた土地が物語の中心になるなど他の作品においても重要な役割を果たしている。なによりFaulknerが本作品の続編である“A Justice”や前編にあたる“A Courtship”を描いていることからもこだわりをうかがうことができる。これにはFaulknerがニューオーリンズでの生活を始める直前に1924年にすべてのインディアンに市民権が与えられたこと、また初めてインディアンが登場する“Red Leaves”の時代設定をオリジナルのBras-Coupéが登場する(1850年代)よりも以前の1800年代初期にしたことが、アメリカ史を鑑みると大きいと考える。本発表では“Red Leaves”におけるニューオーリンズ、Bras-Coupé、インディアンのテーマを手がかりに関連作品を見渡しながら、そこに見え隠れする人種の問題を考察し、小説家Faulknerを考えたい。