佐久間 由梨 一橋大学(院)
1920年代、ジャズエイジの幕開けとともに、人種を問わず多くの詩人たちによって、ジャズ・ポエトリーというジャンルが産み出されてきた。Selected Poems of Langston Hughes において「オリジナル・ジャズ・ポエット」と称されるラングストン・ヒューズも、紛れもなくジャズ・ポエトリーを描いた詩人の一人であると認識されている。しかしながら、一体何がジャズ・ポエトリーであるのか?という疑問に対する明確な答えはない。
本発表の主目的は、ジャズの要素を融合することによって産み出された、ラングストン・ヒューズの1951年の作品Montage of a Dream Deferred を分析することによって、ヒューズのジャズ・ポエトリーの意義を炙り出すことである。ヒューズ曰く、「ビバップのような現代のハーレムにおける詩」である Montage of a Dream Deferred は、40年代のハーレムにおいて誕生したジャズスタイルの一種であるビバップと同じ要素で出来上がっている。「モダニズムの申し子」という異名を持つビバップに特徴的であるのは、黒人性の象徴であるとされたブルースのみならず、時代の波によってハーレムに運ばれた西洋音楽、白人のポピュラー音楽、西インド諸島の音楽などとの融合によって生み出された、近代化されたメロディー、コード進行、リズムである。本発表では、ビバップの音楽的特徴に基づいた分析を行うことによって、第一にこのように複数の文化間を自由に揺らぎ、それらを吸収しながら常に変化と発展を繰り返すジャズを組み込んだヒューズの詩が、黒人性と西洋白人のモダニズムといった雑多なる要素の内部における葛藤と融合を表現していることを明らかにする。第二に、 “Dream Deferred”(遅れた夢)というタイトルに顕著であるように、複数の文化間を揺らぐジャズが、その葛藤の中で常なる変遷を行いながらも、同時に常に変わらぬ「叶わぬ夢」を抱き続けていることを明らかにする。ジャズを組み込んだヒューズの詩は、ゆえに、雑多なる文化の内部で変遷しながらも、常に終わらぬ「夢」と未来を抱くモダニズム期の黒人作家による新たなる言語表現として再解釈されるのである。