1. 全国大会
  2. 第45回 全国大会
  3. <第1日> 10月14日(土)
  4. 第6室(55年館6階 563教室)
  5. 4."A Harmonious Whole" を求めて—Alice Walker の Possessing the Secret of Joy における文化的・性的多様性の位相

4."A Harmonious Whole" を求めて—Alice Walker の Possessing the Secret of Joy における文化的・性的多様性の位相

星 かおり 東北学院大学(院)


Alice Walker (1944- ) の5番目の長編 Possessing the Secret of Joy (1992) は、Walkerの多くの作品に見られる ‘crazy quilt’ の構造をなしており、主人公Tashi、その他の登場人物達を含め、8人の語り手達の独白で構成されている。そして、その独白にはそれぞれ語り手の名前が付与されている。その語りの6割ほどが精神を病んだTashiの語りであり、Tashiの語りの箇所はTashi、Evelyn、Tashi-Evelyn、Evelyn-Tashi、Tashi-Evelyn-Mrs. Johnson、Tashi Evelyn Johnson Soulというように語り手の名前が変化していく。本発表では、主人公Tashiと彼女を取り巻く人物達の名前を手がかりに、この小説が内包している文化的・性的多様性の位相について考察することを目的とする。

Lauret (2000) は、語り手Tashiの名前の変遷について、DuBoisの “double consciousness” という概念を援用し、アフリカに属する意識をもつTashiとアメリカ人としての意識をもつEvelynの二重意識の葛藤として分析している。そしてこの相反する位置に配置されるアイデンティティが次第に “a harmonious whole” に統合されていくと述べている。

文化的多様性、性的差異による抑圧のなかで葛藤するTashiにとって理想的な境地は “a harmonious whole” であるが、Tashiの揺れ動くアイデンティティは、“a harmonious whole” という境地に辿りつけるのであろうか。Tashiは幼少時、宣教師一家から教育を受けた結果、部族のアイデンティティとは異なる要素が既に彼女の意識に芽生えていた。また、渡米後に息子Bennyを出産した時、アメリカの医者達が彼女の性器を物珍しげに観察する様子は、彼女がアメリカにおいて異質な存在であることをTashiの意識に刻み込む。「アフリカ的・西洋的アイデンティティをもち、アフリカの女の印をその身体に刻み込んだ、アフリカ系アメリカ人の宣教師の妻」として生きるTashiは生涯、どの文化圏に身をおいても常に「他者」であり「異質な存在」として眼差しを受ける。どの文化圏もTashiがもつ文化的多様性・ジェンダーをあるがままに許容する場ではないのだ。「異質な存在」とTashiを眼差す視線により、Tashiは常に自らの内に「その文化圏では異質な要素」を自覚させられ続ける。Tashiは “a harmonious whole” を求めつつも、「その文化圏では異質な要素」が内在している限り、相反する意識の揺らぎから逃れることはできない。

本発表では、Tashiの名前の変遷を中心として、Tashiとその他の語り手達との関係を考察しながら、“a harmonious whole” を求めつつも、相互の人格の間の違和を内に抱えたままであったTashiの葛藤を検証する。

また、その他の語り手達も文化的多様性をもち、なかには性的多様性を帯びている人物もいる。彼/彼女達の持つ文化的・性的多様性がどのような意味を作品に与えているのか、そしてこの文化的・性的多様性と作品の多声的構造との関係も明らかにする。