1. 全国大会
  2. 第46回 全国大会
  3. <第1日> 10月13日(土)
  4. 第3室(1号館3階 131教室)
  5. 4.19世紀末から20世紀初頭にかけてのThe Ladies’ Home Journal における小説作品研究

4.19世紀末から20世紀初頭にかけてのThe Ladies’ Home Journal における小説作品研究

秋田 淳子 岩手大学


大量消費社会が到来し、資本主義社会が確立した19世紀末のアメリカでは、複数の女性大衆雑誌が熾烈な売り上げ競争を展開していた。各雑誌は購買者獲得と売り上げ数の上昇のために、掲載する小説作品をその戦略としたことは周知の事実である。女性大衆雑誌掲載作品は各誌の生き残りをかけて、著名作家の獲得や無名作家の育成、また作品の質の向上に力を注いだ。しかし、ジャーナリズム研究の分野がその歴史の概略を紹介したり、女性文化に果たした役割は強調されるものの、今日に至るまでそれらの小説作品を個別に分析することはほとんどない。Social Stories:The Magazine Novel in Nineteenth-Century America (2003)において、アメリカ大衆雑誌における小説作品を考察するPatricia Okkerも、連載という形態が作品に与える影響を論じてはいるが、限定された雑誌のごく一部のものを扱うにすぎない。

中産階級以上の白人女性をおもな対象とし、保守的な内容を扱った女性大衆雑誌には1830年に刊行されたGodey's Lady’s Book があり、1860年代にはすでに15万部の売り上げを記録していた。その後、“The Big Six”と呼ばれる6誌が台頭する時代となる。本発表では、6誌の中でも、1883年12月から現在に至るまで刊行され、1889年11月には100万部を売り上げていた the Ladies' Home Journal をとりあげたい。他の雑誌掲載作品と同様に、女性文化構築に果たした同誌の影響の大きさは指摘されてはいるが、その具体的な小説作品を評価し、系統立てた分析はいまだ充分になされていない。同誌が掲載する作品には、連載を重ねる長編や短編、また、読みきりの短編がある。本発表では、1880年代刊行当初から世紀末をはさんだ約20年間に出版された同誌を考察の対象としたい。連載の初回が巻頭頁を飾ったことがあるものを中心に、女性作家による作品を考察することとする。

雑誌における小説研究は、エッセイやコラム、広告などの言説との関わりにおいて作品を論じたり、同時代の「主流」として評価を受けている作品群との比較、登場人物たちのジェンダー・ロールの変遷、また、作品に描写される女性の領域や仕事、結婚などといった主題の分析をはじめ、さまざまな視点から考察することができよう。しかし、本発表では時間の制約があることから、雑誌が負っていた読者獲得の使命の小説作品世界への反映という点を中心に考察したい。いくつかの具体的な作品を挙げながら、雑誌という発表媒体が小説世界に与えた影響を指摘することになろう。女性大衆雑誌掲載小説作品研究における、基礎的なひとつの視座を紹介することを試みるつもりである。