上智大学 増井志津代
本発表では、Catharine Maria Sedgwick作品とPuritan文学の関連性に注目する。Sedgwickは共和国アメリカを支える新しい宗教の役割を摸索しながら、A New-England Tale を執筆した。作品は当初、ユニテリアンのトラクトとして構想された。彼女はCromwellに任じられたジャマイカ総督を父祖とする家系の出身で、一族はマサチューセッツ西部地域で代々勢力を保持していた。祖先には、Solomon StoddardやJonathan Edwards等、植民地時代のPuritanismを代表する牧師達も含まれる。詩人Edward Taylorが牧師を務めたのもこの地域の教会においてであった。18世紀、マサチューセッツ西部は、StoddardやEdwardsのリヴァイヴァリズムの影響下に置かれ、保守カルヴァン主義の根付いた地域である。A New-England Tale では、こうした伝統が残る小さな村が舞台となる。
StoddardやEdwardsは、個人の回心体験を重要視するNew England PuritanismのPreparationismに基づく救済理解を再確認し、信仰復興運動の指導者となった。1720年代、そして1730-40年代、マサチューセッツ西部コネチカット渓谷一帯は、第一次大覚醒運動の影響下に入る。Stoddardが始めた、個人の罪を強調する「地獄の炎の説教」(hell-fire sermon)は、後世にまで引き継がれ、独立革命後の第二次大覚醒運動へと継承されていく。A New-England Tale が執筆された19世紀初頭は、第二次大覚醒を経た直後で、回心中心的福音主義に則った信仰復興集会がパターン化し、辺境地域の教会の重要な活動となっていた。
リヴァイヴァルは教会分裂を促進し、大覚醒後には多くの新教派が誕生した。作品では、第二次大覚醒後に勢力を伸ばした福音主義的なメソジスト、植民地時代には周縁に置かれていたクェイカーが、主流の正統的会衆派と対比され、肯定的に描かれている。
本作品執筆の頃、Sedgwickはユニテリアンとなり伝統的カルヴァン主義を強く批判したのであるが、会衆派正統主義をしりぞける彼女の態度は、さしたる反発を招くことなく、作品は、若い女性を読者対象とする比較的健全な作品として受入れられた。Mrs. Wilsonに代表されるカリカチュア化された極端なカルヴァン主義者を登場させ、正統主義批判を前面に出したこの作品が受容された要因はどこにあったのだろうか。Natural TypologyやBiblical Encomium等、作品に散りばめられたPuritan文学伝来の修辞的特徴に注目すると共に、これが執筆された19世紀初頭ニューイングランドの宗教文化にも目を配る。その上で、反カルヴァン主義的なこの作品が、Puritanismの文学的伝統の残る19世紀初頭のニューイングランドで、どのような位置を占めたのか、David S. ReynoldsやLawrence Buell等の先行研究を参考にしながら解明を目指す。