小林 徹 防衛大学校
Herman Melvilleの“The Paradise of Bachelors and the Tartarus of Maids”を、そのタイトルが示している対照的構造というスタイルに着目しながら、「色」という表象を通して語り手が語ろうとしたことが何であったのかについて論じていく。
この物語の中に登場する色ということでは、“The Tartarus of Maids”の章に登場する女工たちの姿(顔)を表現した“pale”、“blank-looking”、“pallid cheek”、“sheet-white”などの「白」に関連した色が挙げられる。Moby-Dick or the Whale においても、その「白」という色の深遠さを語るために1つの章が費やされており、そこから想起される「死」のイメージに関しては、すでに何度も多くの研究者がその論文の中で言及してきている。
一方で前半の“The Paradise of Bachelors”に関しては、タイトルもその内容も一見すると“The Tartarus of Maids”とは対照的な作品であると思われるわけだが、語り手自身がpaper millへの道のりで“inverted similitude”を感じたと述べているように、彼は何らかの共通点を両者に見出している。しかしbachelorsの宴は、次から次へと登場する数々の「酒」や「料理」、そして彼らの身につける「エナメルのブーツ」といった華やかな色彩を連想させる表現で覆われており、少なくとも外観的な部分において“The Tartarus of Maids”との共通性を見出すことは困難なように思われる。その一方でbachelorsをテンプル騎士団と比較する表現の中で、騎士団が纏っていたマントを“snowy surcoat”という言葉を使って暗示していることからも、彼らが「死」へと向かうであろうことは容易に想像できる。つまりbachelorsとmaidsの両方の姿を目の当たりにし、彼らの周りを彩っていた「色」を語った語り手の言葉をそのまま信用してしまうと、この作品を対照的とも、もしくはWilliam B. Dillinghamが指摘しているように“the same world seen from another angle”とも定義して良いかどうかについては再考を要すると思われるほど、“The Paradise of Bachelors”の中には“The Tartarus of Maids”との対照性も類似性も混在していると考えることができるのである。
本発表では、語り手自身が用いた「色」についての表現に込められた意図を明確にした上で、彼が見出した“inverted similitude”とは、いったい何だったのかということを探り出したいと思う。