1. 全国大会
  2. 第53回 全国大会
  3. <第1日> 10月4日(土)
  4. 第3室(2号館1階13番教室)
  5. 3.トマス・ウルフ再読—長編作家としてのウルフと中編作家としてのウルフの間で

3.トマス・ウルフ再読—長編作家としてのウルフと中編作家としてのウルフの間で

京都大学(院) 工藤 人生

 

Thomas Wolfe(1900-1938)は、20世紀と同時にアメリカ南部の山国で生まれ、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸を数回遍歴し、アメリカの生活を噴き溢れる河のように書き、Look Homeward, Angel、 Of Time and the River、 The Web and the Rock、 You Can't Go Home Againの四大作を残した長編作家として知られる。しかし、The Short Novels of Thomas Wolfeの序文に寄せたC.H.Holmanのように、長編作家として見られていたWolfeを、中編作家として見直そうという試みが起こった。それは、Wolfeの長編小説に「統一がない、形式がない、筋がない」のは、彼の作品の自伝性(Wolfeの小説観)と(アズウェルやパーキンズとの)共同編集性にあることを指摘したものである。ホールマンは序文の中で、「逆説的ではあるが、Wolfeは1万5千語から4万語までの長さの中編小説において、最高の出来栄えを示す幾多の作品をものにした。(中略)しかし、これら[中編小説]はWolfeの作品集からは事実上姿を消していたし、彼の著作に馴染みのある読者にさえ、影をとどめなかった」と述べている。また、Malcolm Cowleyのように、「もしこれら[“The Web of Earth”、“A Portrait of Bascom Hawke”、“I Have a Thing to Tell You”など] が別々に出版されていたら、(中略)Wolfeは別の評判、即ち散文の叙事詩人としてではなく、中編小説と人物描写の作家としての評判を得ていたかもしれない」(“Thomas Wolfe: The Professional Deformation,”1957)という評価を下した批評家もいる。

これらの批評は、中編作家としてWolfeを論じる場合、非常に参考になる。しかし、Wolfeは中編作家としての道を歩まず、彼の自我意識は、長編作家を求めた。Wolfeは、“No Door”や“I Have a Thing to Tell You”といった中編小説群を、あえて分断し、長編小説の中に組み込んだ(“No Door”は9か所に、“I Have a Thing to Tell You”は5か所に)。なぜWolfeは、このような態度をとったのであろうか。なぜ、芸術的完成度の高い中編小説を寸断し、長編小説に挿入したのだろうか。おそらく「統一がない、形式がない、筋がない」という批判を浴びることを承知の上で。

本発表では、中編作家としてではなく、あくまでも長編作家にこだわったWolfeの小説観を、You Can't Go Home Again (1940)を中心に詳らかにすることを目的とする。そこには、自伝作家というレッテルを貼られ、共同編集との批判を受けても、従来の型にはまらない創作への使命感、そして中編小説には盛りきれなかった彼の生涯のテーマが、重層的に関わってくると考えられる。