概要
映画が有するネットワークから生じる〈内〉と〈外〉をめぐる論点とは何か。
映画の内部あるいは映画間の諸問題をはじめ、歴史や文学との邂逅、産業としての映画の足跡を追う。
本書では5つの部を設けて、映画の〈内〉と〈外〉をめぐる論点を探究する。第Ⅰ部から第Ⅲ部では、映画に内在する「構造」と「語り」の問題をはじめ、「ジャンル」という映画を横断するテーマを探り、また「サスペンス」と「音」をめぐる論点を掘り下げる。また、第Ⅳ部と第Ⅴ部では隣接領域としての歴史や文学との邂逅のほか、産業としての映画の足跡を追う。終章では、映画史記述という映画史の根源的問題を取り扱う。
目次
『映画学叢書』創刊にあたって(加藤幹郎)
はしがき
第Ⅰ部 映画の〈内〉をめぐって(1)──「構造」と「語り」へのアプローチ
第1章 〈マルチプロタゴニスト映画〉または群像劇映画にみるナラティヴ構造の歴史と理論──グリフィス、『グランド・ホテル』、そして「インディーズ」(小野智恵)
1 マーケティング的な要請から形式に対する関心へ
2 4つの原理──〈分立〉〈結束〉〈近接〉〈連鎖〉
3 原理は「複合」する?
4 「不完全な語り手」による反復描写と「視点の民主化」
5 変化する〈マルチプロタゴニスト映画〉
第2章 政府と映画の密なる関係──英国、フィルム・タグの主題と語りの特徴について(吉村いづみ)
1 映画と政府が出遭うとき
2 映画に関与した行政機関──情報省と戦争目的委員会
3 戦う理由、果たす義務
4 「食糧の節約」と「労働の奨励」
5 戦時貯蓄証書の購入
第Ⅱ部 映画の〈内〉をめぐって(2)──映画史が問うジャンルの歴史と現在
第3章 第二次世界大戦戦闘映画『特攻大作戦』と西部劇『ワイルド・アパッチ』──ヴェトナム戦争中のロバート・アルドリッチ(大勝裕史)
1 反権威主義的パロディ
2 大量殺戮のアレゴリー
3 ヴェトナム西部劇としての『ワイルド・アパッチ』
4 ヴェトナム終戦の黙示録的アレゴリー
第4章 「黒の恐怖」を奪回せよ──黒人ホラー映画史における創造的プロセスをめぐって(ハーン小路恭子)
1 黒人ホラー映画とは何か
2 『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の革新性
3 ブラックスプロイテーション・ホラーの価値転倒性
4 鏡の中にある如く──『キャンディマン』とイメージの反転
5 『キャンディマン(2021)』、『ゲット・アウト』、「黒の恐怖」の奪回──21世紀の黒人ホラー映画
第5章 血の季節の向こう側 ──『ゴールデン・リバー』と西部劇ジャンルの歴史(川本 徹)
1 殺し屋兄弟の姉妹的関係
2 MとWの初々しい描写
3 西部劇と歯の文化史
4 血の季節のはじまり
5 銃なき世界を生むための「銃」
6 ユートピアのゆくえ
第Ⅲ部 映画の〈内〉をめぐって(3)──「サスペンス」と「音」が問いかけたもの
第6章 クロスカッティングによる観客参加──ヒッチコック映画における「追いかけのサスペンス」を再考する(碓井みちこ)
1 ヒッチコックの発言を読む(1)──「客観的サスペンス」と「主観的サスペンス」
2 ヒッチコックの発言を読む(2)──観客を登場人物に肩入れさせるサスペンス
3 ヒッチコックの発言を読む(3)──『サボタージュ』と時間を追いかけるサスペンス
4 『サボタージュ』の分析(1)──爆発までの定められた時間
5 『サボタージュ』の分析(2)──客観的サスペンスの中にある主観的サスペンス
6 『汚名』のクロスカッティングの分析──アリシアの視線の意味
第7章 ジャック・タチ映画の音響表現の特異性──台詞の優位性に対する〈挑戦〉(正清健介)
1 靴音にトリュフォーが感じた違和感──『ぼくの伯父さん』
2 ピンポン玉の音にバザンが感じた違和感──『ぼくの伯父さんの休暇』
3 台詞の優位性と無意味な会話
4 台詞の優位性に対する〈挑戦〉、その終極としての台詞の消去──『プレイタイム』
5 ガラス越しの声と聴取点
6 孤高の映画作家──その演出の特異性
第Ⅳ部 映画の〈外〉をめぐって(1)──歴史・文学と映画との邂逅
第8章 失われた祖国、彷徨う自己──1920年代のフランスにおける亡命ロシア人映画(小川佐和子)
1 亡命ロシア映画人、パリへ
2 アルバトロス社の商業映画路線
3 「対象喪失」としての映画的表象作用
4 不在のままの自己、彷徨するパスカル
第9章 『オズの魔法使』と封じ込めの戦略──アダプテーション研究の可能性(杉野健太郎)
1 小説『オズのふしぎな魔法使い』と映画『オズの魔法使』
2 「虹の向こうのどこか」──ドロシーとユートピア願望
3 「脳みそがないのにどうして話せるの」──3人の男たちと自分を肯定すること
4 「おうちが一番」──現状肯定とユートピアの否定
5 現状肯定と封じ込めの戦略
第Ⅴ部 映画の〈外〉をめぐって(2)──産業としての映画の足跡
第10章 東京国際映画祭の誕生とその変遷に関する考察──「映画祭とは何か」という問いをめぐって(藤田修平)
1 日本における国際映画祭の試み──東南アジア映画祭と日本国際映画祭
2 1970年代の変革──映画作家の場としての再編
3 東京国際映画祭の誕生──「広告」と「祭」の場としての映画祭
4 国際映画祭間の競争と東京国際映画祭の変容
第11章 映画量産時代への序奏──戦後日本の大手映画会社の興行支配と独占禁止法違反をめぐる問題(北浦寛之)
1 2本立て興行の禁止と全プロ制
2 独占禁止法と映画界
3 フリー・ブッキングと新東宝の自主配給開始
4 2本立て興行の流行
終 章 映画史はいかに語られてきたか ──ニュー・フィルム・ヒストリーからその先へ(仁井田千絵)
1 1960年代以前の映画史記述
2 修正主義の映画史、またはニュー・フィルム・ヒストリー
3 2000年代以降の映画史──フィルムからシネマへ、さらにはメディアへ
4 今後の展望
初出一覧
映画用語集
人名索引/映画タイトル索引
監修者・執筆者紹介