概要
本書は、テロリズムを軸に、
エドガー・アラン・ポーの「恐怖のテクスト」を先行/後続する映画や文学作品という「縦糸」、同時代の文化や事件などの「横糸」という
「インターテクスト性」から読み解こうとする文化研究である。
商業作家ポーは本を売るために多彩な戦略を練りあげ手段を選ばなかったが、文学研究者はもちろん一般の読者にも著者の声が届くように、ポーが煽情性を煽ったように不気味な図版を散りばめ、専門性を避けて読みやすい一冊になっている。
そう、本書は、サブカルチャーとポーを「ハイブリッド」に混ぜて論じてゆく。サブカルチャーで「偽装」し、サブカルチャーに「寄生」したポー論でもある。
目次
まえがき 恐怖の世紀にようこそ
序論 われらの同時代人エドガー・アラン・ポー
——恐怖と向きあうために
1. 盗まれたポー——現在ポーはどこに(でも)いる!?
2.一九世紀のボーイズ・ラブ
——ポーの一族としての探偵たち
3.他者恐怖の時代——壁のなかのアメリカ
第一章
盗まれた文学(Purloined Letters)
——分身小説と版権の詩学
はじめに 分身小説の進化論
——『ギルガメッシュ』から『バイオハザード』へ
1.ポーの文学史的評価——なぜポーは埋葬されたのか
2.ポーとアメリカ文化研究——盗み返されたポー
3.ベストセラー作家たちの苦境(ミザリー)
——キング、メルヴィル、ポー
4.版権の文化史——作家/作品とは何か
5.所有権の物語——「ウィリアム・ウィルソン」
「モルグ街の殺人」「盗まれた手紙」
おわりに 作家の署名——ポー産業と映画化作品
第二章
猿たちのテロリズム——オランウータンの影に
はじめに ポー/テロの世紀
——『キング・リア』か『キング・コング』か
1.ポーの息子たち——『キング・コング』、
『アメリカの息子』、「モルグ街の殺人」
2.恐怖の表象としてのキング・コング
——猿はどこから来たのか
3.犠牲者の表象としてのキング・コング
——二人の奴隷と視線をめぐる戦い
4.エイプ・レイプ幻想
——「モルグ街の殺人」分析
5. ポーの子猿たち(The Apes of the Subversive)
——「モルグ街の殺人」・『四つの署名』
・『猿の惑星』
おわりに 他者たちのテロリズム
——『マンスフィールド・パーク』から
『ジュラシック・パーク』へ
第三章
ゆがんだ眼(レンズ)の男たち——光学的欺瞞の物語
はじめに アメリカン・アポカリプスの文学
——ワールドトレードセンターの崩壊
1. 観察する眼
——観相学・骨相学・犯罪人類学の文化
2. 再現される事件/対象
——ポーにおける眼・写真・探偵
3. 視覚的錯誤の物語
——『アーサー・ゴードン・ピムの物語』の
反転する現実
4.敗北する探偵たち
——「群集の人」における老人とは何者か
5. 血を吸うカメラ
——ヒッチコック、『裏窓』、イラク戦争
おわりに これは戦争か——映画と光と戦争と
第四章
博物館の帝国——再生をめぐる夢と悪夢
はじめに 博物館の夢/悪夢
——博物館から遊園地に
1.巨象/虚像の発掘
——チャールズ・ウィルソン・ピールと剥製文化
2.再生される貨幣
——「黄金虫」における交換の物語
3.帝国の逆襲
——「ミイラとの会話」とエジプト症候群と
4.境界攪乱の詩学——「ライジーア」とミイラ再生
おわりに ナイトメア・ミュージアム
——博物館の「崩壊」
第五章
戦慄の絆
——フリークショー/文学におけるシャム双生児
はじめに
1. フリークショーの文化史
——シャム双生児とは何者か
2. 元祖シャム双生児チャンとエン
——その身体が意味するもの
3. シャム双生児症候群
——二人のウィルソン/二つのウィルソンの物語
4. 分身としてのテクスト
——「ウィリアム・ウィルソン」と
「アッシャー家の崩壊」
最後に テクストとしてのシャム双生児
解剖/解読される身体
第六章
アメリカン・シアターとしてのフリークショー
——人種の構築/脱構築のパフォーマンス
はじめに 仮面の男
——演技(パフォーマンス)するポー
1.人種の構築
——アメリカン・シアターとしてのフリークショー
2.畸形のパフォーマンス
——「使い切った男」、セルフメイドマン、サイボーグ
3.人種の脱構築
——「ホップ・フロッグ」の仮装舞踏会
4.境界攪乱の白黒ショー
——ポーからマイケル・ジャクソンへ
おわりに パフォーマンスとしての顔面の崩壊
——ダンスする撹乱者たち
あとがき トランプ大統領の時代に