1. 4.メスメリズムと医学的視線―Oliver Wendell Holmes の Elsie Venner と The Guardian Angel

4.メスメリズムと医学的視線―Oliver Wendell Holmes の Elsie Venner と The Guardian Angel

庄司 宏子 成蹊大学


Oliver Wendell Holmesの小説第1作 Elsie Venner: A Romance of Destiny (1861)とその続編 The Guardian Angel (1867)は、当時の読者に異様な医学的症例を描いた“a medicated novel”と呼ばれた。Elsie Venner のヒロインElsieは、母親が妊娠中に毒蛇に噛まれたため、先天的に精神的異常気質をもって生まれてきた少女とされ、医学者でもあったHolmesは1830年代に登場する“moral insanity”という精神疾患のカテゴリーに基づいてヒロイン像を構築したと考えられる。また The Guardian Angel のヒロインMyrtle Hazardの神経症は、「複数の先祖の血が彼女の中で衝突している」ためとされ、今日の多重人格の症例を思わせるものとなっている。Holmes作品には、Nathaniel Hawthorneの影響が見られる。蛇娘Elsieには、Nathaniel Hawthorneが描いたBeatrice, Pearl, Georgiana等、人間と異形なものとのハイブリッド・ヒロインが彷彿とし、また西方の土地(Hawthorneの場合は東方の土地)の所有権争い、古い家柄と神経症の女性、結婚による祖先の呪いの解消を描く The Guardian AngelにThe House of the Seven Gables を重ねることも可能である。後年HolmesはHawthorneからの影響を煙に巻くかのように、「自分が父上(の作品)に着想を示唆したことは喜ばしいことだった」とHawthorne家の末子Roseに語っている(Rose Hawthorne Lathrop, Memories of Hawthorne, p. 247.)。

Holmes作品にHawthorne作品が反響するとしても、両者を異なったものにしているのはヒロインに対する前者の医学的視線であろう。Holmesはヒロインを見る/診る視点として医師の視点を用い、その症例を語るのに当時の医学用語を使う。そして彼女たちのヒステリアの特徴(Elsieの場合はその異様な眼、Myrtleの場合は“vision”と称される千里眼)にメスメリズムの要素が現れていることも興味深い点である。メスメリズムはまた、Holmesの医師たちによる彼女たちの診断および治療術ともなる。メスメリズムは女性の他者性を構築すると同時に、その他者性を「患者」として医学の言説に囲い込むときの「正統科学」の道具ともなるのである。フランス人Charles Poyenが西インド諸島での体験を綴った1837年の書から、メスメリズムは砂糖プランテーションでの奴隷労働の管理の術であったことが窺える。そのPoyenによってメスメリズムがニューイングランドにもたらされてから約20年、植民地支配を支えたメスメリズムは、Holmes作品において医学言説によるジェンダー支配の構造へと転換する。メスメリズムの多元性が捨象され、女性の身体と精神を“colonize”しながら正統医学に取り込まれる様子、そこに現れる医師の「想像の共同体」をHolmes作品から明らかにしたい。