1. チカーノ作家Anaya文学のエスニシティ――ローカリズムと帰郷と春

チカーノ作家Anaya文学のエスニシティ――ローカリズムと帰郷と春

愛媛大学 林  康次


今回は、1969年の“El Plan Espiritual de ”で表明された「解放の計画」たるチカーノ運動の使命を継承発展させたRudolfo Anaya(1937- )の最近作Jemez Spring (2005)を中心に、エスニシティの問題を考えていきます。

新大陸というユートピア史のなかで歴史と地理を奪われた人々の苦悩をAnayaは心身の「麻痺」と捉えました。ニューメキシコのチカーノの麻痺を「同化」ではなく「解放」へと、Tortuga (1979)からJemez Spring へ展開してきたAnaya文学の全体を構成する要素は以下三点に要約できます。

まずは、エスニシティをめぐるミステリーの追究とその探求の方向としての脱神話化が挙げられます。Jemez Spring を頂点とする四季四部作の探偵Sonnyの謎解きは南西部で繰り広げられますが、その場で、D. B. Polkが詳述した、以来のカリフォルニアからニューメキシコにおける神話を脱神話化する必要が生じます。スペインとアングロ・アメリカの〈マニフェスト・デステニー〉から学ぶAnayaは歴史と地勢の回復の希望――の夢を文学に託します。作者はSonnyに先祖との夢の対話を意図しました。舞台はヨーロッパ近代による「魅惑の島」カリフォルニアという「黄金」幻想の場でした。

次に、Anayaの想像力に関して、HomerのOdysseyを下敷に、ニュー・スペイン/メキシコ/合衆国の砂の海上で冒険を果たし帰郷する「チカーノ・ユリシーズ」としてSonny像を定着させたことに注目しましょう。Homerが父親から息子への希望として自立する息子に「新しいうた」を託したとすれば、チカーノの未来、春の到来を告げる資格ある者としての夢見る人Sonny像はその共同体(Indohispano)の希望を体現する者として意図されている筈です。

最後に、Anaya文学の使命に関して一言触れておきます。Glissantの批評を管啓次郎は、「いわば『結び語り』の詩学、世界を編み上げる同時代的な関係性と報告すべき歴史的意識という二重の焦点をもつ詩学」と的確に解説しています。AnayaのJemez Spring のSonnyとRavenとの対決の物語もエスニシティの限界を超えた「結び語り」の二重性の使命を帯びているようです。

本シンポジアムでは、以上のエスニシティをめぐるミステリーとしてのAnaya文学をグローバルの夢に憑かれた「愚かなアメリカ」におけるローカリズム(言葉、バリオ、歴史)、帰郷、春の三側面から発題します。