1. 2.Toni Morrisonの Sula ――プラトンから読み解くSulaの成長

2.Toni Morrisonの Sula ――プラトンから読み解くSulaの成長

奥野みち子 大阪市立大学(院)


Sula (1973)はプラトンの『饗宴』、『パイドロス』、『ソクラテスの弁明』、『クリトン』、『パイドン』、オウィディウス『変身物語』、陶淵明『桃花源記』を下敷きにしていると主張すれば突飛だと思われるかも知れない。しかし、難解とされる Sula はそのアイデア、プロット、背景のかなりの部分が上記古典からの借用 / 応用だと看做せば、理解しやすくなるのである。また、Sula は断片的挿話の集成で統一性に欠け、主人公Sulaには成長が見られないとする指摘が少なくない。しかし、上記古典を参照すれば、Sula は輪廻というテーマで内面的統一が図られているのが分かり、Sulaの成長はプラトンを参照すれば理解しやすい。本発表では、Sulaの成長とその意味を、プラトンを参照することで読み取る。

さて、Sulaの成長がわかりにくいのは、彼女は『饗宴』にあるディオティマ(ソクラテスの代弁者)のエロス説 ―― 知恵の愛を育てた者は不死の特権を賦与される ―― に準拠した段階的成長を遂げるからである。この段階的成長を読み取るには、Sulaの人生をプラトンの諸作品を参照しながら見る必要がある。特に、プラトンが Sula の下敷きであると判断しやすい箇所は、12歳のSulaとNelが草遊びを始める前の情景である。この情景は、『パイドロス』の冒頭にある平和な情景の借用と推察できる。『パイドロス』のテーマには男の同性愛があるが、SulaとNelが草遊びをする描写には、二人が性的に魅かれ合う気持ちが暗示されているとする指摘がある。草遊びの後に、Sulaが誤ってChicken Littleを川に放り投げて溺死させるのは、『パイドロス』のなかでソクラテスが語るギリシア神話にある、少女が風に吹き飛ばされて死ぬ物語の応用と言える。Sulaの成長は、『饗宴』との関わりが多い。29歳のSulaは理想的な男Ajaxの肌の下に3種類の美を想像する。これはディオティマのエロス論の核心にある ―― 順序を追って様々なものに美を観てきた人は、その人の成長の最高段階において突然、3つの語句で形容される真の美を心眼で観る ―― ことの応用である。Sulaはまた、『ソクラテスの弁明』、『クリトン』で描かれるソクラテスにも似せられ、さらにSulaの死は、『パイドン』からも説明できる。プラトンは『饗宴』においてソクラテスを神話化する傾向があるが、Morrisonは結末でSulaを木に変身させ、神話化することで、Sula をアメリカ黒人神話に仕立て上げている。

このようにMorrison が古典を下敷きに Sula を創作したのは、大学で古典学を副専攻したことも関係していると思われる。また、Morrisonは、古い芸術様式及びそこにあるアイデアと状況を元の意味を変えずに、作品に生かしていると語っている。この発言は、Sula は古典を下敷きにしているとする私の主張を補強するものだと言える。