1. 1.故郷を想像/創造する――H. W. Longfellow の Evangeline と19世紀末英語系カナダ詩人たち

1.故郷を想像/創造する――H. W. Longfellow の Evangeline と19世紀末英語系カナダ詩人たち

荒木 陽子 新居浜工業高等専門学校


本発表は旧仏領アカディアの一部であり、現在世界最大数のアカディア人を抱えるカナダ東海岸、ニュー・ブランズウィック州出身の19世紀末の詩人が故郷を詠う詩、Charles G. D. Robertsの“Tantramar Revisited” (1887)とBliss Carmanの (1893)を、19世紀アメリカの詩人Henry Wadsworth Longfellowにより詠われ、出版当時「アメリカの叙事詩」として歓待された、物語詩Evangeline, A Tale of Acadie(1847)と比較し、前者に表出するEvangeline のイメージを検討する。本考察により、カナダ英語圏のナショナリスト詩人が、アメリカ人が「アメリカ」の一部として詠った「仏領カナダ像」、そして「アメリカ人の創出したカナダ観」をもとに、彼らの故郷である「カナダ像」を創造していたことの問題性を指摘したい。

1755年、英軍とそれを補助したニュー・イングランド軍は、英領となった現在のカナダ沿海州(マリタイムス)に生活していた仏語系住民、アカディア人に強制移住を強いた。Evangelineはこの「アカディア人の追放」を描いたものである。架空のアカディア人主人公Evangelineの「追放」による婚約者Gabrielとの別れ、そしてEvangelineのGabrielを探す長い旅と、異郷フィラデルフィアにおける死期迫るGabrielとの再会を描くこの詩は、合衆国はもとより翻訳を通して世界各国において好評を得た。そして、Longfellowがその土地を見ることなく描いた「虚構」は、彼同様にアカディアを訪れたことのない読者のアカディアに対するイメージの形成に影響を与えた。

しかし、Evangeline が「マリタイム観」形成に与えた影響はそれに止まらない。その詩が、19世紀末の第一次アカディアン・ルネッサンスの中、ケベック人Pamphile Le Mayによる仏語訳を介して、追放先から沿海州に帰還したアカディア人自身のアカディア観の形成に影響したことは良く知られた事実である。加えて、本発表は、Evangeline が、「追放」後、同地域を「故郷」とした英語系沿海州カナダ人が、詩作の中で「故郷」を形成する際にも多大な影響をあたえたことを明らかにしたい。カナダ連邦結成(1867)以降の国民文学を待ち望む動きの中登場した一団の青年詩人Confederation Poetsのうち、沿海州出身のRobertsとCarmanの作品を検討すると、ロングフェロー由来の「虚構」に過ぎないアカディアのイメージが、彼らがかつて「カナダ生まれの英語系カナダ人」により詠われることのなかった「故郷」を「詠う」ことにより「創造」する際に、「想像力の貯蔵庫」として機能していたことがわかるのである。