1. 3.血塗られた手――Hawthorne、Auster、書く女

3.血塗られた手――Hawthorne、Auster、書く女

上田麻由子 首都大学東京(非常勤)


Richard H. Brodheadは、The School of Hawthorne(1986)で、アメリカ文学史に連綿と受け継がれるNathaniel Hawthorneの影響をたどった。Brodheadによると、Hawthorneはアメリカ文学史の礎となっただけでなく、<いま・ここ>にいるわたしたちが、いかに過去の影響下にあるのか、そして、いかにそこから逃れようとあがいているのかを示す、「過去」に関する歴史学者だという。それゆえ、Hawthorneの作品は、後の世代の作家が自由に「使える」opennessを持っていると同時に、その行為に対してつねに自問を強いるものになっている。

Paul Austerは、この“The School of Hawthorne”の1人に数えられるべき現代作家である。特に、Hawthorneの短編“Wakefield”(1835)の主人公Wakefield は、Ghosts(1987)のBlueやThe Locked Room(1987)のFanshaweをはじめ、多くのキャラクターのプロトタイプになっている。彼らはWakefieldのように、ある日突然、偶然に、あるいは成り行きで、それまでの自分の人生から切り離されて、ほとんど隠遁者のような生活を強いられる。ただ、Auster作品の主人公がWakefieldと違うのは、隠遁生活のなかで、「書く」ことを手がかりに、自己を理解しようとする点である。

2002年に出版されたThe Book of Illusions には、そのような「書く」人物である主人公David Zimmerに加えて、もう1人、別の書き手が登場する。それは、Alma Grundという左の頬にあざを持つ女性で、彼女はHawthorneの別の短編“The Birth-Mark”(1843)に出てくるGeorgianaになぞらえられている。“The Birth-Mark”において、科学者のAylmerは、これまでさまざまな解釈が加えられてきた妻Georgianaの左頬のあざを、「唯一の汚点」とみなし、それを取り除こうとしてその命を奪ってしまう。Kate LawsonとLynn Shakinovskyは、彼女のあざが「指し示す機能(signifying quality)」を象徴していると指摘したが、このあざが手の形をしていることから、それは「指し示す」という受動的な存在を超えて、「書く」という能動的な機能をも象徴していると考えられる。しかし、あざを取り除こうとしたAylmerや、それに従ったGeorginaとは違い、Almaは自分の頬に刻まれた「書く」能力を意識し、それを積極的に活用したにもかかわらず、結末はどちらも破滅であった。このことから、頬に刻まれた「手」はまた、自分の首を絞める「手」にもなりうるということが分かる。

そこで、本発表ではこれまであまり焦点の当たることのなかったAuster作品における女性の書き手に注目し、Austerがどのようにして、「文学的父親」たるHawthorneの“Wakefield”と“The Birth-Mark”を利用して、「書く」行為の持っている人を生かす力と、殺す力、という二面性に取り組んだのかを明らかにしたい。