1. アフリカ系アメリカ人文学に見るInterracialism

アフリカ系アメリカ人文学に見るInterracialism

広島女学院大学 森 あおい


アメリカのヒエラルキーを構築する要素の一つは、長いあいだ人種であった。にもかかわらず、人種ほどその定義がはっきりしないものはない。むしろその曖昧性が、根拠のない人種差別を制度化するのには好都合で、黒人との人種混交を恐れる白人は、一滴でも黒人の血が流れていれば黒人とする「一滴の血液のルール」など、基準の説明がつかない掟を定めた。

アフリカ系アメリカ人文学は、奴隷制時代の「奴隷体験記」から、黒人性を肯定するハーレム・ルネッサンス期の文学、その後に続く、リチャード・ライトらによる、いわゆる抗議文学に至るまで、アメリカにおける人種混交を忌避するポリティックスを反映してきた。その流れに変化が訪れるのは、公民権運動以後、少数民族優遇政策が施行された後のことであった。この時代以降に生まれた作家、あるいは成長した作家は、公民権運動に直接関わることなく育ち、制度上は差別のなくなった社会で教育や雇用などに関しても白人と同様の機会を得、人種の枠を超えたもっと自由な立場から創作活動を行なうようになった。アフリカ系アメリカ人の作家・批評家のネルソン・ジョージは、この時代を、公民権時代、音楽で言えば、ソウル・ミュージックの時代以降という意味で、「ポスト・ソウル」と呼んでいる。

黒人初のアメリカ大統領として注目を集めているバラク・フセイン・オバマもポスト・ソウル世代に属している。ケニヤ人の父、アメリカ白人の母のあいだに生まれ、両親離婚後、母が再婚すると義父の故郷、インドネシアに移り住んで幼少期を過ごし、その後、様々な人種が共存するハワイで母方の祖父母のもとで育ったオバマは、アメリカの白人と黒人、ケニア、さらにアジア、ポリネシアの人々の文化を吸収してきた。彼が体現するのは、一つの人種に囚われない、異人種混交から生まれた多様性を容認するInterracialismであろう。

しかし、Interracialismが人種の違いを超越する一方で、アメリカ社会から人種の問題がなくなったわけではない。トニ・モリスンは、人種がヒエラルキーを構築してきたアメリカの歴史を踏まえて、「人種が問題とはならない」スペースを、文学を通して構築しようと目論んでいる。モリスンの最新作、A Mercy は、17世紀のアメリカ植民地を舞台に、人種を問わず人々が差別や抑圧、支配と葛藤する姿を描き出す。本発表では、これまでアメリカ社会で多くの軋轢の原因となってきた人種の問題について、モリスンが提唱する「人種が問題とはならない」スペース構築の試みと照らし合わせながら検討していくことにする。