1. 3.Paul Simonの詩における愛、死、そして自殺

3.Paul Simonの詩における愛、死、そして自殺

渡久山幸功 沖縄キリスト教学院大学(非常勤)


Bob Dylan, John Lennon, Bruce Springsteen, Patti Smith, Joni Mitchellなどと並んでロック詩人の一人としてPaul Simon (1941- ) は40年以上のキャリアを築き上げてきた。しかし、彼の作品に関する学術的研究は進んでいるとは言えない状況である。昨年サイモンのキャリアの集大成として、Simon & Garfunkelのデビュー・アルバムWednesday Morning, 3 A.M. (1964) から彼のソロ最新作 Surprise (2006) までのオリジナル全作品のほとんどを収めた詩集Paul Simon Lyrics 1964-2008 (2008) が出版された。この詩集にはノーベル賞詩人Derek Walcott (1930- ) と共同制作したブロードウェイ・ミュージカル The Capeman (1998) も収録されている。この詩集を一瞥すると、サイモンが単なるポップ・ミュージシャンではなく、深遠な文学的表現の使用を実践し、かつ60年代以降のアメリカ社会の時代精神を反映したメッセージを表現してきた現代アメリカ「詩人」であることが判る。本発表では、サイモンの「歌詞」を「音楽に乗る詩」として取り上げ、初期の作品を中心に「愛」と「死」のテーマ、特に、後者のテーマと深く関連する「自殺」を主題にした詩を中心に論じたい。

英詞のポピュラー・ソングにおいて、自殺をテーマにした楽曲は幾つかあるが、サイモンも自殺に関する曲を数曲書いている。サイモンとガーファンクルのセカンド・アルバムSounds of Silence (1966) には、誰もが羨む人生の成功者の突然の自殺を扱った19世紀のアメリカ詩人E. A. Robinson (1869-1935) の詩 を彼なりの解釈で改変した “Richard Cory” と孤独な若者の自殺を報じた新聞記事に触発された “A Most Peculiar Man” の2曲が含まれている。 また、組曲アルバムとしてロック史上最高傑作の一つとして評価の高いBookends (1968) で は、カウンター・カルチャー世代の苦悩する若者の飛び降り自殺を描いた “Save the Life of My Child” がオープニング・ナンバーを飾っている。さらに、サイモンとガーファンクルの最高傑作アルバム Bridge Over Troubled Water (1970) には、恋人からの手紙がこない孤独のうちに縊死を想像する 偽レゲエ・ソング “Why Don’t You Write Me” が収録されている。

キリスト教を基盤とする社会にとって、自殺は罪と認識されているにもかかわらず、サイモンが描く自殺には罪の認識は希薄である。ソングライターとしてキャリアをスタートして以来、「人間関係」をテーマとしてきたと説明する作者の観点に立てば、自殺の概念は、現代人の究極的な孤独感・疎外感を喚起する有効な文学的特殊表現 (literary device) として機能しているように思われる。自殺行為に対するサイモンの共感的な視線を反映したこの比喩表現は、後には、自殺希望者に対する究極の愛情表現を内包するメタファーとして使用されるようになり、自殺を肯定する難解なメッセージを発信しているかのような「危うさ」が歌われている。