1. 4.ディアスポラのアジア系アメリカ人の視覚詩――エスニック・アイデンティティと文化的多様性の表出

4.ディアスポラのアジア系アメリカ人の視覚詩――エスニック・アイデンティティと文化的多様性の表出

吉岡 由佳 神戸大学(院)


19世紀半ばの移民の始まりから、20世紀を経て21世紀初頭の今日までアジア系のディアスポラは拡大し、アジアのさまざまな出自を持つ人々が、それぞれの文化や伝統を維持したまま異文化の中で生活することになった。それによって、異文化間の葛藤や融合による新たな文化の形成が起こった。特に、1960年代から70年代のアメリカでは、パフォーマンス・アートが他の芸術とも融合しつつ発展した。その中で、アジア系アメリカ人のアーティストは、パフォーマンス的手法を通して、表現方法としての声を獲得する。事実、近年の欧米の学界においては、声を発することへの関心の高まりに伴って、「言語詩人」(language poets)の作品のような視覚的効果に重点を置いた取り組みが盛んになった。

たとえば、中国系アメリカ人詩人Pwu Jean Leeの作品の一つに“A Guitar”と題した、視覚的効果と言語、そして音楽性を融合した詩がある。「彼女のギターには弦がない」(“Her / guitar / has / no / string.”)で始まるこの作品は、詩全体がギターの形になるように配置され、無音の音楽性が表現されるが、作品中の「沈黙の楽譜」(“silent note”)こそ、弦のないギターが生み出す音に他ならない。それはフィリピン生まれのアメリカ詩人Jose Garcia Villaの“Parenthetical Sonnet”(そして、有名な前衛芸術家John Cageの4’3’’)とも類似した空間的パフォーマンス・アートとも言える。加えて、韻律においては、前半部に‘s’音の頭韻が効果的に配置され、力強さと歯切れの良さを付加している。また、視覚的表現においては、冬、春、そして秋という季節の変化の中で、雪の白、ルビーの赤、芍薬の白といった鮮やかな色の対比が美しく、そうした表現がディアスポラ体験を投影している。

本発表では、アジア系アメリカ人詩人たちが文字を通して発する声の多様性に着目し、Pwu Jean LeeやJose Garcia Villaや中国系カナダ人詩人Frederick James Wahなどのアジア系アメリカ人(アジア系カナダ人も含む)の詩人による視覚詩、特にディアスポラ体験を通して描かれた視覚詩を取り上げる。さらに、そうしたアジア系のディアスポラ詩人たちの視覚詩を比較分析することによって、アイデンティティと文化的多様性の相関性、すなわち、いかに彼らが複数の言語・伝統・文化を維持しながら、エスニック・アイデンティティを模索したのか、Mikhail Bakhtinのcarnivalesqueの理論を参照しながら、考察していきたい。