1. 1.『アメリカの没落』における「渦」のエネルギー

1.『アメリカの没落』における「渦」のエネルギー

谷岡 知美 広島女学院大学


アレン・ギンズバーグ(Allen Ginsberg, 1926-97)が1973年に発表した、6年間の全米の旅を素材とする長編詩、『アメリカの没落』(The Fall of America)には、「吠える」(“Howl,” 1956)や「カディッシュ」(“Kaddish,” 1961)には見受けられなかった、新たなエネルギーが注入されている。

本発表では、作品の第一部の標題にある、「渦」(Vortex)のイメージを中心に『アメリカの没落』を読みとく。1914年にイギリスで出版された『ブラスト−イギリスの偉大な渦再考』(Blast: Review of the Great English Vortex )にマニフェストを掲げた、ウィンダム・ルイス(Wyndham Lewis, 1882-1957)とエズラ・パウンド(Ezra Pound, 1885-1972)が中心となって推進した「渦巻派」(Vorticism)は、「渦」の中心に集中して存在するエネルギーに注目し、芸術は「動」と「静」のエネルギーが同時に存在する点にあることを主張した。

『アメリカの没落』には、語り手による全米の旅と、語り手の意識の旅が存在する。全米の旅とは、語り手が全米の旅をおこないながら、道中で見たアメリカを、コラージュや「一行一息思考」(one speech-breath thought)を用いて描写したもので、意識の旅にはヴェトナム戦争に対する反戦意識が主として投影されている。語り手は、旅行中に目にした全米の風景、自分の意識、そしてマス・メディアといった、それぞれの断片を、「渦」のもつエネルギーで巧みに『アメリカの没落』を「渦」の構造へと構築した。さらに、「動」と「静」のエネルギーをもつ「渦」の理論をとおして作品を考察することで、『アメリカの没落』におけるギンズバーグの描いた旅の本質を検討する。