1. 4.「丘の上の町」の神話と1980年代のフィクション

4.「丘の上の町」の神話と1980年代のフィクション

児玉 晃二 学習院大学


合衆国第40代大統領Ronald Reaganは、在任中の演説でJohn Winthropの説教をしばしば引用したが、中でも有名なのが「光り輝く丘の上の町」(shining city upon a hill)という表現を用いて、自らが成し遂げた“強いアメリカ”の復権を謳い、その輝かしい未来を祝福した退任演説(“Farewell Address to the Nation”)であろう。「丘の上の町」(a City on a Hill)は、アメリカ上陸を目前にしたWinthropの演説(“A Model of Christian Charity”)に登場し、「アメリカ=神の祝福に満たされた世界の模範となる町」という極めて自己肯定的な神話的な言説を形成してきた。Reaganの演説はその言説に沿ったもので、彼の自身に満ち溢れた態度とシンプルで楽天的な気質、延いては彼の治世の空気を何よりも雄弁に物語って多くの人々の記憶に刻まれることとなった。

さて、本発表では、1980年代のReagan政権期を扱った二人の作家の二つの作品―Don DeLilloのWhite Noise (1985)、Kurt VonnegutのHocus Pocus (1990)―を、この「丘の上の町」言説に着目して分析し、Reagan時代の文化的コンテクストとポストモダン的特徴について考察していく。DeLilloとVonnegutは、同じくポストモダン作家としてカテゴライズされるとはいえ、属する世代も作風も関心も政治的な姿勢も異なり、またWhite Noise とHocus Pocus では発表時期が5年ほど離れている。だが、興味深いことに、Reagan時代と関連性をもつ両作品は共に「丘の上の町」ならぬ「丘の上の大学」(それぞれCollege-on-the-hillとTarkington College)を舞台としており、奇妙な符合を見せている点は注目に値する。なぜ「町」ではなく「大学」なのか。その違いは何か。また、そこはどのような場所なのか。これまであまり注目されてこなかった両作品の舞台「丘の上の大学」それ自体に焦点をあて、そこに様々な形で織り込まれた時代的、文化的なコードを分析することで、Reaganが説いた「光り輝く丘の上の町」の影の部分が逆照射されるだけでなく、二人の現代作家が様々な差異を超えて共有し、それぞれの作品に取り入れたReagan時代のポストモダニズム的特徴とはどのようなものなのかも考察可能になると考える。批評家Joseph Deweyは、Reagan政権のポストモダン性を分析する中で、人々が政権を受容したメカニズムと、ディズニーワールド等のテーマパークを支える論理との類似性を指摘しているが、この示唆に富んだ議論を足がかりに、両作の読解を試みたい。