1. 3.SFとフランケンシュタイン・コンプレックス

3.SFとフランケンシュタイン・コンプレックス

高階  悟 秋田県立大学


フランケンシュタイン・コンプレックスを使ったのはSF作家アイザック・アシモフ(Issac Asimov, 1920-1992)である。この用語はイギリスの女流作家メアリー・シェリー(Mary W. Shelley, 1797-1851)の文学史上最初のSF小説と称される『フランケンシュタイン』(Frankenstein or The Modern Prometheus, 1818)中の野心的な科学者の抱いたコンプレックスに由来している。SF作家アシモフは科学技術の発展した未来社会における人間とロボットの共存する社会のドラマを多数描いているが、その中にはフランケンシュタイン・コンプレックスを抱いてロボットの普及に反対する人々が登場している。彼らは人間が科学技術を駆使して便利なロボットを造りだし、そのロボットによって人間が滅ぼされるという不安や恐怖に取りつかれた人々である。アシモフは『われはロボット』(I,Robot, 1950)で人間の保護を優先させた「ロボット工学三原則」(Three Laws of Robotics)を提唱した。

文学と科学をつなぐ架空の物語サイエンス・フィクション(SF)の世界で、アシモフと同じようにメアリー・シェリーのテーマを引き継いだ作家は、カート・ヴォネガット(Kurt Vonnegut, 1922-2007)である。彼はエッセイの中でメアリー・シェリーを無制限なテクノロジーの発展を恩恵とする考え方に最も効果的に疑惑を表現した女性として紹介している。また晩年のヴォネガットは「全人類は、いまや遅かれ早かれフランケンシュタインの怪物たちに殺されると思って身をすくめている」とエッセイで述べている。彼は科学の進歩と人間の関係のさまざまな課題に取り組み、創作活動を通して科学技術の進歩に警鐘を鳴らし続けた作家の一人である。

科学の進歩がさまざまな分野で著しい今日、マイクル・クライトン(Michal Crichton, 1942-2008)は最先端の科学の進歩が生み出すさまざまな問題を次々に描き続けたベストセラー作家である。マイクル・クライトンは『ジュラッシク・パーク』(Jurassic Park, 1990)ではバイオテクノロジーの恐怖、『プレイ』(Prey,2002)ではナノテクノロジーの恐怖、『ネクスト』(NEXT,2007)では遺伝子テクノロジーの問題を扱い、遺伝子組み換え食品「フランケン食品」(Frankenfood)に言及している。

21世紀の今日、「科学の産物が人間の手を離れて制御不可能となり、人間に害を加える」というフランケンシュタイン・コンプレックスは、SFの世界だけの問題ではなくなっているようである。めざましい科学技術の進歩に伴い、時には科学者の社会的な責任と人間の尊厳(dignity)をいかにして取り戻すかが問題になってきている。