1. 2.Anzia Yezierskaの作品にみられる「贈与」・「贈与者」について

2.Anzia Yezierskaの作品にみられる「贈与」・「贈与者」について

本田安都子 愛知県立大学(非常勤)


本発表は,Anzia Yezierska (1880?-1970) の“The Deported” (1920),“The Lost ‘Beautifulness’” (1920),“America and I” (1923),“Brothers” (1923),“The Song Triumphant” (1923) などの散文詩および短編作品を,これらの作品に見られる「贈与行為」に着目して再読する試みである。

Yezierskaの作品においては,しばしば東欧ロシアのユダヤ人居住区での生活が描かれるが,その際,そこでのユダヤ人コミュニティーが贈与によって連帯されていることを示唆する場面がいくつか見られる。例えば,Red Ribbon on a White Horse (1950) には主人公が東欧での生活を回想する場面があり,そこでは,ユダヤ教のラビが近所の子供たちにヘブライ語を教え,その子供たちの親がお返しに食べ物を寄進するという習慣が語られる。このように,Yezierskaの作品において,東欧ロシアのユダヤ人コミュニティーは,市場交換経済とは異なる交易体制によって成り立っていたコミュニティーとして描きだされる傾向にある。

アメリカを舞台にした作品でも東欧系ユダヤ移民の間の贈与行為は散見され,それは東欧系ユダヤ移民やそのコミュニティーを特徴づける行為として描かれている。例えば,“The Lost ‘Beautifulness’” では,ユダヤ移民女性が,息子のために自らの手によって自宅を美しく改装し,更には近所の人たちを改装した自宅に招き,手料理をふるまおうとする様子が語られ,また,“Brothers” では,あるユダヤ人青年がロシアに残してきた家族をポグロムの脅威から救うために,彼らのアメリカへの渡航費を青年に寄付するユダヤ移民たちの姿が描かれる。このように,本来ならば,移民としてアメリカへ渡り,経済的に苦しい生活を強いられている東欧系ユダヤ移民が,人に何かを与える,贈与する人々として描かれている点にYezierskaのユダヤ移民描写の特徴を見ることができる。このことは,当時,東欧系よりも一世紀ほど早くアメリカへ来ていたドイツ系ユダヤ社会から,東欧系ユダヤ移民社会が金銭面だけでなく,モラルや教育など様々な面で「援助」を必要とする存在であると見られていたことを考慮に入れれば,特筆に値することといえる。

以上のように,一見すると,Yezierskaの描きだす東欧ロシアのユダヤ人コミュニティー,つまり贈与体制によって特色づけられるような東欧ロシア・ユダヤ人社会は,新天地アメリカにおいても生き延びているように見える。しかし,そこで物語が終わることはない。東欧ロシアにおいてはユダヤ人コミュニティーの連帯を示唆していた「贈与行為」が,アメリカにおいては,市場交換体制によって,時に飲み込まれ,または打ち負かされてしまう姿をYezierskaは描写するのだ。今回の発表では,そのような「贈与」の「敗北」について,前述のYezierskaの作品群の精読を通して検証していきたい。