1. 3.停滞と移行のモチーフ――The Reef における建築とインテリアの機能

3.停滞と移行のモチーフ――The Reef における建築とインテリアの機能

水口 陽子 関西学院大学(院研究員)


The Decoration of Houses (1897)やItalian Villas and Their Gardens (1904)等の建築に関する著書を著したことでも知られるEdith Whartonは、建築や庭、内装への並々ならぬ関心を小説中の建物や部屋の内部に詳細に描きこんでいる作家の一人である。早くから、Whartonと建築や室内空間との関わりについては議論がなされてきたが、個々の作品における具体的な建築とインテリアのモチーフに関する分析は、The Age of Innocence やThe House of Mirth などの代表作に見られる内装の研究にとどまっている。

本発表では、Henry Jamesによって「Walter Gayの絵画のように光揺らめく、Whartonのフィクションという見事な家々の中でも最高」と評された、1912年発表のThe Reef を中心に、部屋、扉、絵画などが織り成す室内空間が作品のテーマといかに関わり合っているのかを、主な登場人物の一人であるGeorge Darrowの視点を中心に詳細な分析を試みたい。

本作のBook 1の最後に位置するDarrowとSophy Vinerが親密さを深める場面において、ドアは重要な役割を果たしており、それはDarrowにとっての、さらにはこの小説の主要登場人物すべてにとっての転換ともなる出来事の重要なモチーフとして機能し、Darrowの揺れ動く心情を表すための有効なモチーフとして描かれている。さらに、ドアとも深く関わる「敷居」をこの作品における転換、移行の場として位置づけ、物語の転換と比較しながら論じる。

また、Wharton作品において絵画、舞台(空間)の重要性は見逃すことができず、この作品ではこのような芸術と空間の交錯するモチーフがふんだんに用いられている。例を挙げるならば、DarrowのAnna Leathを見つめる視線の中につきまとう、建築や絵画、彫刻としてのAnnaのイメージの中には、女性の「神格化」と「閉じ込め」の両方の要素を読みとることができるだろう。このような、建築や絵画、さらには蒐集などに見られる、対象(人物や過去)の「閉じ込め」と、フランス貴族社会とアメリカにまたがる旧社会と新しい世代とのせめぎあいやジェンダーにまつわる問題点とのかかわりを、停滞と移行をキーワードに読み解ってみたい。

その他にも、Wharton作品には、窓や鏡、門などといったモチーフが物語の展開やテーマの上で重要な機能を果たしているものが多く、他の長編や短編小説などの考察も交えながら、Whartonの作品における建築とインテリアの機能を再考することによってThe Reef の再評価を試みたい。