1. 4.O Pioneers! における「静」と「動」のモチーフ

4.O Pioneers! における「静」と「動」のモチーフ

西田 智子 九州産業大学


Willa Catherの O Pioneers! (1913)の中では、Cather自身が子供時代に目にしたネブラスカの自然や辺境開拓民の生活、アメリカ西部における新しい農園と社会の創造の過程が描かれる。スウェーデンからの移民であり、異分子としてアメリカの大自然と人間社会に介入していくBergson一家にとって、未開のネブラスカの荒地は最初、人間に対して何も与えてくれない、閉ざされた「静寂」の空間であったが、家族とその長女であるAlexandraの努力と才覚により、ついには豊かな収穫をもたらす農場へと「動き」はじめ、生まれ変わるのである。Alexandraはこの大地の変化を、“The land did it. . . . It woke up out of its sleep and stretched itself”と語る。Alexandraにとっての大地のイメージが象徴するように、この作品における開拓者の人生経験には「静」と「動」の要素が繰り返され、またそれがパラドクシカルなことではあるが互いに引き合う経験の要素として描かれていると言える。そこで本発表では、「静か」な安定を求めてたえず「動く」Alexandraをはじめとする登場人物達に訪れる、「静」と「動」の経験が意味するものを、同時代のアメリカのナショナリティーというコンテキストの中で考察していきたい。

Joanna L. StrattonはそのPioneer Women (1981)の中で未開地に適応する人間には「特別強固な、不屈の精神が必要だった」と述べるが、Alexandraはまさに少女のころから強い意志と才覚を備え、また男性を労働者として見ることしかできないまま、土地を切り拓き農場を創り上げることに成功する。彼女のプラクティカルな生き方には迷いがなく、彼女は弟たち男性を「動かし」、采配する立場であり、決して自然の猛威に「流されない」努力を継続する。ところがそんなAlexandraがたびたび見る、彼女の潜在的な欲求を表す夢と、彼女が幸福の象徴と感じ取った光景は、彼女の方が屈強な男性に軽々と抱き上げられ「動かされる」夢であり、また水の「流れ」に身を任せ全身で幸福を楽しむ野ガモの様子である。また生活の安定を手に入れたはずのAlexandraは、根なし草のような放浪生活を送ってきた幼馴染のCarl Linstrumの生き方に憧れを感じ、末弟Emilにその夢を託そうとする。この時点でAlexandraはCarlの動態を評価し、逆に彼女の生活を、“We grow hard and heavy here. We don’t move lightly”と表現することでそれを向上性に欠ける停滞状態ととらえるのである。このようにAlexandraは「静か」な安定を築く力を持ちながら、同時にその日常性を破る変化へと「動いて」いかずにはいられないのであり、最終的には弟たちの反対を押し切ってCarlとの結婚という新生活へと「動く」。Emilもまた姉の希望や思惑のうち「静か」に留まる人物ではないことは示唆的である。

Alexandraと彼女にまつわる人物達が一つの安定と静かな日常を手に入れた後、また新たな自己実現の欲求に向かって動き続ける様子は、Catherが感じ取った、開拓民たちの解放されていく個人性の表象であり、たえず思い描かれる幻想の楽園と休息の場所を求めて動き続けざるを得ない同時代のアメリカのナショナリティーの一面を示していると考えられるのである。