1. 2.Hawthorne の長編におけるembedded narratives--- Text World Theoryによる読解の試み

2.Hawthorne の長編におけるembedded narratives--- Text World Theoryによる読解の試み

西前  孝 岡山大学


比較的最近の物語(読解)理論の一つとして、Text World Theory(テクスト世界理論) というテクスト分析の方法が提唱され、実践されている。これは、その理論的背景として哲学的には可能世界理論(意味論)、言語学的にはディスコース分析・語用論・認知言語学・修辞学と比喩論、そして文学理論的には文体論(Stylistics)と物語論(Narratology)に基礎を置くテクスト分析法である。

他の多くの理論・方法がそうであるように、この理論も21世紀初頭にあって現在その精緻化の途上にあり、今後も何ほどか変容しつつ成長していくものと思われるが、基本的な分析の道具立ては既に揃っている。

テクニカルタームの主なものとしては、

Narratology: narration; narrator; focal point(point of view); limited omniscience; represented speech(free indirect speech); diegesis; deixis; mise-en-abyme, Modality:boulomaic; deontic; epistemic; hypothetical; conditional, Embedding: embedding(primary) narrative; embedded(secondary) narrative; flashback; flashforward

などに触れることになる。いわゆる「ミザナビューム」の概念は、厳密な議論においては、物語本体のプロットをいわば縮図の形で可能な限り忠実に再現すべく埋め込まれたものに限られるようであるが、本論考は、この概念を緩やかに適用し、その可能性をテクスト世界理論との関連性の中に位置付ける試みである。物語の本筋(そのようなものがそもそもあるのか、という議論は今はさておき)の中に埋め込まれて、何ほどかまとまりを持つ大小さまざまなエピソードを取り上げ、ミザナビュームというよりはembedded narrativeとして位置づけることを通じて、テクストの縦糸と横糸を読み解く試みである。ホーソーンの長編からThe House of the Seven Gables、The Blithedale Romance および The Marble Faun の中のいくつかの章を取り上げる予定である。

歴史の流れの中で、複雑化することをやめない社会の諸システムにおかれた人間の、内的・意識的・無意識的世界を言葉で捉えることが文学の使命あるいは特権であるなら、ホーソーンのテクストの中に大小さまざまな入れ子構造を確認することは、彼の認識と言葉と文学に接近する重要な方法の一つであると思われる。