1. トウェインとヘミングウェイ,ハックとニック

トウェインとヘミングウェイ,ハックとニック

九州大学 高野 泰志


現代アメリカ文学はトウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』で始まるのだというヘミングウェイの言葉はあまりにも有名である。この言葉は自身のサファリ旅行を題材にしたエッセイ『アフリカの緑の丘』に表れるが,同じ箇所でヘミングウェイは,『ハックルベリー・フィン』以前も以後も,それより優れた作品は書かれていないという最大級の賛辞をトウェインに送っている。ヘミングウェイ自身がトウェインの影響をはっきりと認めていることからも分かるように,これまでもふたりの影響関係に関しては,当然のこととして言及されてきた。実際,文体的にも,テーマ的にも,伝記的にも,ふたりの共通点は枚挙にいとまがない。

本発表では,トウェインの作品の中からハックルベリー・フィンの登場する一連の作品と,ヘミングウェイのニック・アダムズ物語を比較する。ハックルベリー・フィンは文明の軛から逃れ,荒野に逃亡する自然児として,ヘミングウェイの言うようにアメリカ文学を代表する登場人物である。一方,ニック・アダムズはヘミングウェイの半自伝的登場人物として,作家の生涯全体にわたって断続的に書き継がれていた人物である。

これまでもふたりの人物像に関してはしばしばその類似点が指摘されてきたが,時代的にも地理的にも大きく異なる両作家の代表的登場人物であるハックとニックを併置することで,表面的な類似点の指摘にとどまらない,本質的な影響関係を改めて検討してみたい。