1. 1.歴史の深さ―19世紀アメリカの歴史記述における地質学の想像力

1.歴史の深さ―19世紀アメリカの歴史記述における地質学の想像力

山口 善成 高知女子大学

 

18世紀末から19世紀半ばのアメリカ歴史記述は,ピューリタンによる予型論的な歴史観を脱し,合理精神に基づく実証的な記述を目指した時代にあたる。もちろん予型論との決別により歴史は自由になった一方,それと同時に準拠する枠組みを失い,個々の史料を積み上げることであらためて統一的な物語の提示を迫られることになる。本発表は当時の歴史家がどのような手段で歴史を語ろうとしていたか検証するためのサンプルとして,Francis Parkmanの後期著作を取り上げる。同時期の他の歴史家たちと同じように,Parkmanもまた地図や地誌情報をふんだんに織り込んだ「空間的な」歴史を試みた一人だが,彼の歴史記述がとりわけ興味深いのは水平方向にひろがった歴史パノラマに「深さ」の次元を付与したことである。

当時の歴史記述にとって,一番の関心事は変化をいかに描き,また変化がもたらす問題をいかに解消するかであった。そもそも革命の時代の歴史が変化を記述の対象とするのは当然である。例えば,彼らはヨーロッパ諸国や新大陸における君主制勢力との対比から,アメリカの新しさと自由を強調した。しかしアメリカが歴史上まれな変化を実現した国だとしても,もう一つ別の変化にさらされていたことも否定できない。つまり,建国後の変化のことである。事実,都市化や産業化により時代は変化のスピードをさらに上げていった。常識的に考えれば,歴史意識はこのような変化のプロセスから生まれてゆくものだが,建国の新しさに固執するレトリックは過去の否定と絶えざる先祖返りを要求するようになる。Thomas Jeffersonは一世代を19年と計算し,19年以上にわたって有効な法はなく,いかなる法もその期間を過ぎたらあらためて制定され直さなければならないという。つまり,定期的に独立革命を繰り返し,新しさを取り戻そうというわけである。

このように常に(建国時のまま)新しくなければならない国において,歴史は漸次的な変化をいかに描くことができたのか。地質学の層のイメージを援用したParkmanの「深い」歴史はこの問いに対する一つの答えである。それは現在と過去を隣接する層として並置し,過去をすぐ近くに感じさせつつも,現在と過去を決定的に断絶させる,いわば秩序と変化が同居した歴史記述だった。当時の地質学そのものが世界の秩序と変化の双方を理論的前提としていたことを考えれば,ここで二つのジャンルがめぐり会うことは当然と言える。さらに文化的背景としては,19世紀前半のアメリカにおける地質学ブームも考慮に入れる必要があるだろう。Parkman自身,オレゴン・トレイルの旅から帰ったばかりの1847年,集めた鉱石のコレクションをハーバード自然誌協会に寄贈し,またThe Conspiracy of Pontiac においてはインディアンを「岩」に喩えた表現で描いている。彼の歴史記述に当時の地質学の言説が影響を与えていたのは間違いない。