1. アフリカ狩猟採集民の動物をめぐる認識と実践 ――グイ・ブッシュマンの談話分析から―

アフリカ狩猟採集民の動物をめぐる認識と実践 ――グイ・ブッシュマンの談話分析から―

京都大学 菅原 和孝

 

私は、1982年よりアフリカ南部のボツワナにおいて、グイ(|gui)というブッシュマン の一言語集団において、人類学的な研究を行なってきた。本報告では、日常会話(1987〜1992年)と生活史の語り(1994年?現在)の分析に基づいて、乾燥サバンナの狩猟採集 民と動物との関わりの特質を照らし出す。

まず動物に関わるグイの民俗分類を概説する。グイには、生活形(life form)を表わす、「鳥」(zera)、「魚」(?k’au)、「ヘビ」(|qx’ao)といった語があるが、日常的には「食うも の」(kx’oo-xo)、「咬むもの」(paa-xo)、「役立たず」(goowaha)という3つの機能的カテゴ リーがよく用いられる。

グイの動物への認識と実践を組織するもっとも重要な軸は食物規制である。なかでも重 要なのが、somoと呼ばれる「老人と幼児の肉」に関わる禁忌である。この禁忌の中心をなすアフリカオオノガン(?geu)は過去に間欠的に挙行された男の成人儀礼にとって重要な 意味をもっていた。青年が同輩を出し抜いてこの禁忌を破るとき、!n?re(「感づく」)という独特の作用が異なる身体のあいだに働く。これは「予感する」ことでもあり、人間、動 物、物(道具)を包みこんだ交感の回路を意味する。

狩猟者は、原野で、動物の形態や行動にまつわる様々な異常に遭遇する。暫くして別の キャンプで親族や知人が死んだという知らせが入ると、「あの異常こそがziu(凶兆)をおれに告げていたのだ」と回顧的に解釈される。これは「自分が立ち会えなかった死」に対 する独特な想像力の投射であり、私たちの「虫の知らせ」と類似している。

さらに、グイにとって鳥たちは、いろんな告知をもたらす。同時に、彼らは鳥の習性や 形態の起源を説明する夥しい民話と神話をもっている。ここから、神話的な想像力と経験 的な観察とが相互補強的な関係にあることが見えてくる。

また、「咬むもの」(猛獣や毒蛇)が男を襲うことのなかには、翻訳の確定できない不可 視の作用c?maが働いている。その外延を列挙すると、「女が男に対して揮う魔力」および 「食物禁忌を破ることによる発狂(動物の憑依)」という二つの系が認められる。

最後に、19世紀のブッシュマンのフォークロアにまで遡り、狩猟採集民と動物の関わり を根源的に動機づけるライトモティーフが「変身」の可能性であることを論じる。