1. 1.「アメリカ」を探す旅――East Goes West におけるエグザイル、移民、コスモポリタン

1.「アメリカ」を探す旅――East Goes West におけるエグザイル、移民、コスモポリタン

松本 ユキ 大阪大学(院)

 

朝鮮系アメリカ文学の父祖として知られているYounghill Kang(1903-1972)は、自伝的フィクションEast Goes West (1937)において、東洋と西洋の出会いを描いた。作者Kangの分身である主人公Chungpa Hanは、近代化の波の中で、祖先の伝統と深く結びついた故国朝鮮が失われていくのを感じ取り、東から西へと向かう。Hanにとって、東から西への移動は、東洋の伝統の死を意味し、西洋近代の空間性、時間性の中で個人として生まれ変わることと結びついている。1921年にニューヨークへと辿り着いた彼は、アメリカ人として生きていくことを希求するが、西洋の学問を突き詰めても、物質的な上昇を追い求めても、人種的偏見や物質主義によりアメリカ人となることを妨げられる。

Hanの物語は、環境や時代の変化だけでなく、人との出会いによっても変化していく。アメリカにおける良き助言者である二人の朝鮮人KimとGeorgeとの関係性の中で、Hanはアメリカにおける自分の居場所を探る。作品中で、Georgeは実利主義が深く根を下ろした世界で経済的上昇を求める労働移民として、Kimは美的精神の世界に住むエグザイルあるいはコスモポリタンとして描かれているが、Hanはその中間に位置することで自己を形成していく。更には、二人の友人を手本とし、Hanは運命の女性Tripと出会うことにより、アメリカ人として生きていくことを選択する。アメリカを探求する三人の旅路は理想の女性を追い求めることと重なってくる。移動の経験そして人との出会いは、彼らにとって、新たな人間として生まれ変わることを意味するのだ。

本発表では、アメリカを彷徨いつづけるHan、Kim、Georgeが、アメリカ社会に根づく人種的偏見や物質主義と格闘しながら、三者三様に経験した旅に焦点を当てる。どこにも帰属することができず、移動を経験し、変化にさらされている彼らは、常に自らを作り変えている。また、アメリカ社会への適応を通じて、物理的、精神的なホームとしてのアメリカを追い求めると同時に、アメリカ社会の人種主義や物質主義を批判的に見つめている。彼らは、故国を喪失したうえに、アメリカにおいても法的な市民となることを許されず、いかなる国民国家のアイデンティティにも回収されない周縁的な存在であり続けている。このような周縁的な位置からアメリカにおける自分たちの居場所を見出そうとする三人の旅路が、様々な空間、時間、他者との関係性によって経験されていることを考察することで、East Goes Westという作品が、アジア系アメリカ人の視点から「アメリカ」という枠組みを捉え直し、個々の経験から浮かび上がってくる流動性や多様性を描き出していることを探求したい。