1. 1.Terry Tempest Williamsの作品に見られる場所的転回について

1.Terry Tempest Williamsの作品に見られる場所的転回について

岩政 伸治 白百合女子大学

 

アメリカの女性ネイチャー・ライターにしてエコフェミニスト、Terry Tempest Williams(1955 - )の21世紀に入ってからの作品を概観すると、2001年9月11日の世界同時多発テロ以降、作品の主題を環境問題から民主主義の問題へと大きく舵を取っているように見受けられる。本発表は、Williamsが首都ワシントンで遭遇した自身の同時多発テロ体験をモチーフにしたエッセイ、”Scattered Potsherds” (2001)、Henry David Thoreauの作品Waldenに寄せられた前書き”Double Vision” (2003)、そしてアメリカ民主主義のWilliams流の理想を描いたThe Open Space of Democracy の3つの作品を取り上げ、Williamsがネイチャー・ライターとしてのアイデンティティを維持しながら民主主義の理想について語る上で、議論の橋渡しに一つの修辞的戦略が機能していることを、”Double Vision”の中で使われている”koan”という言葉をキーワードに明らかにしたい。

そのためにまず、”Double Vision”において、”koan”がどういった意図で用いられ、また文中においてどういう役割をはたしているのかを検証する。Williamsが自らを東洋思想の求道者と呼んでいること、またWilliamsが作品を書き上げる上で採るレトリックに共通するのが、日々私たちが直面している「今、ここ」にある現象を理由付けしようとする一種の弁証法的構造をとることから、”koan”が禅仏教の公案を意識しているものであることは明白である。

その上で、自身の同時多発テロ体験を綴った”Scattered Potsherds”の作品構造を精査し、このエッセイが喪失の物語であり、喪失を物語ることが、これまで概観してきた世界を再構築し、新しい展望を開くという弁証法的な構造を持つことを示したい。

最後に、The Open Space of Democracy 中の最初のエッセイ、”Commencement”を取り上げ、これまで構造として示されてきた弁証法が、分裂した世論をより大きなコンセンサスへと止揚することを目論む修辞的戦略として作品中に具体化されていることを紹介したい。