1. 3.Topdog/Underdog に見る想像の家族

3.Topdog/Underdog に見る想像の家族

穴田 理枝 大阪大学(院)

 

Suzan-Lori Parksは2001年初演、2002年ピューリッアー賞受賞作品Topdog/Underdog が「家族の傷と癒しについての劇」であると語っている。黒人兄弟の同族間殺人に終わるこの物語のどこに「家族の傷と癒し」が描かれているのだろうか。

妻に追い出された兄Lincolnが弟Boothのアパートに転がり込み、2人は同居生活をしている。この兄弟は10代のころ、両親に捨てられた辛い過去を持つ。弟はかつて母の男性関係を偶然知り、母の出奔の時にも居合わせた。兄は父の女性関係につきあわされたという経験を持つ。そんな2人が両親から遺産を遺された。弟は母から、兄は父から、それぞれ与えられた500ドルである。互いが持つ親との記憶と経験、分け与えられた遺産を2人が合わせて初めて、記憶にある、あるいは想像の家族の形が再現される。

しかし兄弟それぞれの家族へのまなざしには大きな視差がある。弟は母がストッキングに入れたという遺産と家族のアルバムを大事に持ち続け、アルバムを完成させる「家族」を求め続ける。女や酒にどん欲だった父のマスキュリニティへのあこがれは、女性支配を前提とした家族像への渇望へと変換される。女性を手に入れ、兄と組んでのカード賭博で経済力を手に入れることが、彼にとってそこにあるべき想像の家族を完成させる鍵となる。

一方父からもらった遺産をすぐに使い果たした兄は、父の置いていった服を燃やし、父の不在そのものを抹消している。「最悪の家」で崩壊した黒人家族の暮らしは冗談の中でパロディとして語られる。そこには郊外で暮らす幸せな白人家族のステレオタイプが介在している。しかし両親が手に入れたのは「表はごみの山、裏はセメント工場」という場所に建つ家だった。両親は子供よりも「もっと好きなもの」のために家を捨て、その家も結局は空洞化する。兄にとって家族の姿はかつてそこにあったという痕跡でしかない。

カード賭博から足を洗った兄は、今はリンカーン大統領の扮装をして客におもちゃの銃で撃たせ、暗殺場面を再現させるショーで生計をたてている。毎週金曜の給料日に生活費の算段をする2人は疑似夫婦のようである。兄弟ともに家庭崩壊で負った傷をかかえ、貧困の中で生きる黒人として暴力や犯罪への危険な誘惑にさらされて生きる。兄の弟への思いやり、弟の兄へのあこがれの中に家族としての癒しがある。にもかかわらず、弟は親が互いに遺したのと同じ500ドルを賭けたカードゲームに兄を誘い、ゲームに勝った兄を射殺する。弟は歴史上の大統領暗殺と同じく、兄の後頭部から弾丸を撃ち込む。兄Lincolnが日々繰り返してきた暗殺ショーの最後を現実のものとしたのは、黒人家族の「遺産」を賭けた兄弟のカードゲームだった。

本発表では、まず黒人兄弟それぞれのイメージする家族像とその視差を分析する。次にそこから逆説的に前景化される、アメリカ的家族モデルの支配のメカニズムに言及する。そして最終的に兄殺しの顛末を迎える本作に込められた、黒人兄弟それぞれの想像と現実との間で増幅され、あるいは反転していく「家族の傷と癒し」についての読みを提示する。