1. 4.Cynthia Ozick のゴーレム――ユダヤ伝説の蘇生

4.Cynthia Ozick のゴーレム――ユダヤ伝説の蘇生

大場 昌子 日本女子大学

 

ゴーレムとはユダヤの伝説に登場する、土でできた人造人間のことである。16世紀のプラハで、ユダヤ教の宗教的指導者であるラビのユダ・レーヴがゴーレムを作ってユダヤ人に対する攻撃を防いだという話がつとに有名だが、ゴーレム伝説の歴史は古く、たどれば遠く聖書での記述にまで遡る。一方、20世紀でもゴーレム伝説は様々な形で文学作品や映像作品において扱われ、とくに20世紀末、ユダヤ系アメリカ人作家たちの作品にゴーレムが次々登場していることは興味深い現象である。

本来、ゴーレム伝説にはユダヤ神秘主義が深く関わっており、ゴーレムを作れる者はラビのみで、作る過程では宗教的な一連の儀式をともなう。そのもっとも特徴的な儀式は、形成された土人形に生命を吹き込む際、その額にヘブライ語で「真理」を意味する文字4字を刻むことである。逆に生命体としてのゴーレムを機能停止させるには、4文字の内の1文字を削り取り、残る3文字がヘブライ語で「死」を意味し、ゴーレムは土に戻される。ユダヤの人造人間ゴーレムは、その存在が言葉と不可分という属性を賦与されているのである。

Cynthia Ozick (1928- )のThe Puttermesser Papers (1997)はルース・プッターメッサーという女性を主人公とする5つの短編からなり、その中の “Puttermesser and Xanthippe”にゴーレムが登場する。46歳のプッターメッサーは愛人に去られ、勤務先のニューヨーク市役所においても理不尽に降格される中、動機は明かされないままに、観葉植物の鉢植えから土を取り出し、それを水道水でこねて、少女のゴーレムを作る。出来上がったゴーレムは、伝説のゴーレムと同じく発話はできないものの筆談ができ、自らクサンチッペという名前を要請する。クサンチッペはプッターメッサーを「お母さん」と呼んで家事を引き受ける一方、プッターメッサーの指示もないのに「お母さん」をニューヨーク市長にするべく獅子奮迅の働きをし、プッターメッサーは見事市長に当選する。市長に就任したプッターメッサーはクサンチッペに命じて荒廃したニューヨークの「蘇生」を図り、まもなくニューヨークはまるで理想郷のようになる。ところが、日々身体が成長するクサンチッペはやがて生殖願望に駆られ、理想の男性を求めて次々と男性を襲い始め、同時にクサンチッペの貢献を失ったニューヨークは荒廃の一途をたどる。もはやクサンチッペを放置できなくなったプッターメッサーは、これも伝説どおり、クサンチッペの額の1字を削って土に戻し、物語は終わる。

このように本作品では、フェミニストと紹介される女性を中心に、ゴーレム伝説のフェミニズム的書き換えともいえる話が展開する。しかしながら、オジックのゴーレム物語では、ラビ・レーヴの伝説とは異なり、女性市長プッターメッサーの功績はすべて消失する。発表では、本作品におけるゴーレム伝説の書き換えが、単なるフェミニズム的企てに終わっていない点を検証しながら、現代に「蘇生」するゴーレムの表象について考察したい。