1. 3.Roderick Hudson におけるMalletの役割とJamesの道徳意識

3.Roderick Hudson におけるMalletの役割とJamesの道徳意識

後川 知美 宇部工業高等専門学校

 

Henry Jamesは、自選集New York Edition(1905−07)の序文において、Roderick Hudson (1875)が彼にとって「複雑な主題をもった最初の長い小説」であったと述べている。それまでも旅行記や書評、短編などを執筆していたJamesではあったが、本作品は、若き芸術家Roderick Hudsonの成功と崩壊という主題が、彼のパトロンでもあり友人でもあるRoland Malletの視点を通して提示される点でも複雑な要素をもったものだと言える。

先行研究では、Malletは主人公と並ぶ重要な登場人物だとみなされており、その役割は、James習作期の作品に見られたような、主人公に起こった事件を提示するだけの ‘witness’ の立場を超えて、‘observer’ とか ‘focalizer’ といったものに相当すると思われるが、それらを今一度きちんと整理した上で、本作品をとらえ直す必要があるだろう。

また、Jamesの道徳意識についてもしばしば議論がなされてきたが、作品内容との関連ではまだ考察の余地がある。そもそもJamesの道徳意識には、幼い頃から子供たちにヨーロッパでの教育の機会を与えてきたJamesの父親の教育観が大きく影響している。そのため、Roderick Hudson において、MalletがRoderickの身に起こる出来事を見守り、そこに加えられた彼の思考や分析といった内的状況を考察するにあたり、特有の環境で育ったJamesの道徳意識との関連を無視することは出来ないはずである。

そこで、本発表ではまず、この作品においてJamesがMalletに課した役割を明確にしつつ、Jamesがヨーロッパの様々な文化に触れるたびに強いられた選択、すなわち、その異質な環境に溶け込もうとするのか、それに反撥するのかといった選択において、彼が拠り所にしていたと思われる道徳観が、Roderick像をとらえるMalletの意識の中にどのように反映されているかについて検証する。さらに、Jamesはこの作品に対する自身の興味が「Malletの意識を中心に」物語を進行させることにあったと述べているものの、道徳意識という観点から本作品を評価する場合、これまであまり詳細に論じられたことのない他の登場人物の役割が、Malletの意識を中心に物語を進行させるというJamesの意向を裏切っている点があることを指摘したい。最後に、こうした作品の欠陥を明確にするために、Roderick Hudsonとほぼ同時期に書かれた“Madame de Mauves”(1874)と比較し、Malletのような役割は、Jamesが道徳意識の伝達方法を試行錯誤する中で編み出されたものであり、彼の中期、後期作品へと発展してゆく重要な側面を持っていることを明らかにしたい。