1. 独立戦争とメルヴィル

独立戦争とメルヴィル

鹿児島大学 竹内 勝徳

 

19世紀の作家であるメルヴィルの作品では、しばしば18世紀末の世界が描かれる。Israel Potter はアメリカの独立戦争を描いているし、“Benito Cereno”は1799年の話である。Billy Budd の時代設定は1797年である。これらの物語が、アメリカの独立(1776年)から始まり、フランス革命(1789年)、ハイチでの黒人政権の樹立(1790年)、アイルランド大蜂起(1798年)へと続くいわゆる「大西洋革命」の時代にマッピングされていることを無視する訳にはいかないだろう。

イズラエルはアメリカからフランス、イギリスへと移動する中でアメリカ独立を支持するイギリス人らに出会う。“Benito Cereno”では、スペインの奴隷船で反乱を起こした黒人奴隷Baboが、アメリカ人船長Delanoの黒人に対する先入観を浮き彫りにする。ビリー・バッドはアメリカ独立の機運を作ったThomas Paineに由来する商船からイギリス軍艦に移籍するが、スピットヘッドやノアの反乱を再発させないよう船上で警戒が強まる中、反乱の首謀者として誤認される。物語内では触れられないが、このスピットヘッド、ノアの反乱は、アイルランド大蜂起を企てたユナイティッド・アイリッシュメンによって仕掛けられたとされている。そのビリーが “a Catholic priest striking peace in an Irish shindy”に譬えられている。メルヴィルは、一連の作品において、大西洋周辺の国境を超え、出身地に関係なく、様々な支配に苦しみながら権力と戦う人々の姿を、物語の前景、背景にわたり描いたと言える。

19世紀中葉に入ると、アメリカ合衆国は領土拡大へと邁進し、徐々に帝国主義的性格を帯びていった。もう一つのイギリスと化しつつあったのだ。その時代に、帝国主義的な観点では捉えきれない、しかし、この国家の成立基盤を作った大西洋革命の脱中心的な力学を描くことは、独立の意味を再定義し、同時代の政治的枠組みを問い直すことに繋がる。本発表では、こうしたメルヴィルによる戦史の読み替えについて考えると共に、同時代の領土拡大主義プロパガンダとの対比を試みる。