1. ワシントン・アーヴィングのもたらしたもの―ニューヨークとイギリスにその文学のモチーフを探る

ワシントン・アーヴィングのもたらしたもの―ニューヨークとイギリスにその文学のモチーフを探る

齊藤  昇

 

ワシントン・アーヴィングの文学活動は極めて多岐にわたる。すなわち、彼はニューヨークの社交界や政界に対する鋭利な諷刺で才気を発揮した後にイギリスに渡り、そこで自然や風俗を平明かつ軽妙な筆致で描き出したり、あるいは独自の神話・伝説の世界を展開するなど、いわばユーモラスな味を持つ随筆家として注目を浴びた。さらにスペインでは紀行文学ばかりでなくA History of the Life and Voyages of Christopher Columbus (4 vols.)などに代表される歴史・伝記文学の分野でも意欲的な文学活動を行なった。そして、アメリカに帰国後は自らの西部旅行の体験や史料に基づくAstoriaなどの開拓史を発表し、晩年はかねてより念願のThe Life of George Washington (5 vols.)の著述に没頭してこれを完成した。このように、アーヴィングが発表した作品はかなりの数に達し、それぞれ発表された時期には多くの読者に歓迎され、また高い評価も得た。ある意味で、アーヴィングは因習や迷信の巣窟ともいうべきアメリカンフォークロアを本格的に取り上げた最初期の文学者であると言えるだろう。また、彼がアメリカ的な短編文学形式の端緒を開き、その確立に寄与した功績についても疑いを入れぬところである。

ところで、冒頭でも触れたようにイギリス時代に執筆したアーヴィング作品には、そこはかとなく神話・伝説的な香りが漂う。その意義性はギリシア神話の価値が本質的にそうであったように、単に神話や伝説の寄せ集めではなく、文学的な構想と表現と美学を備えていたところにあったと思われるし、その取材範囲の広さと正確さが、彼の文学の豊かさや深さを増すことに大いに貢献したものと想像される。アーヴィングによって創り出されたゴシックテイストを湛える神秘、超自然的なアレゴリーなどの伝統的観念が従来のヨーロッパの文化遺産と重い歴史の上で個人と社会との葛藤を通じて自己規定を行いながら、やがてアメリカ・ロマン主義の流れの中で意義深く機能していったと捉えて差し支えないだろう。鳥瞰的な視座から眺め直してみれば、不朽の名作"The Legend of Sleepy Hollow"中の描写はアーヴィング以降のアメリカ文学の主題とも言える異文化衝突であると考えられるし、その意味ではDaniel Hoffmanの解釈通り、登場人物のIchabod CraneとBrom Bonesは、その後も変わることなくお互いをライバル視しているのである。

ここでは、アーヴィングのニューヨークにおける初期文学活動の成果であるSalmagundi、それに続くA History of New York を経て、アメリカ的なユーモアとウィットを盛り込んだ随想や短編、そしてWalter Scottとの邂逅により多くの啓発を受けたと思われる作品群に触れ、さらに踏み込んでイギリス時代やニューヨーク時代の足跡と照らし合わせながらアーヴィング連山に分け入り、そのの魅力と文学的モチーフを検証したいと思う。