1. 3.Suzan-Lori Parksと黒人のリンカーン―The America PlayとTopdog/Underdogにみる「歴史」の芸術的創造

3.Suzan-Lori Parksと黒人のリンカーン―The America PlayとTopdog/Underdogにみる「歴史」の芸術的創造

佐藤 里野 お茶の水女子大学(院)

 

劇作家Suzan-Lori Parksにとって、「アメリカ大統領」は、演劇というメディアによって「歴史」を再考するための重要なモチーフである。とくにエイブラハム・リンカーンは、The America Play (1994年初演)やTopdog/Underdog (2001年初演)といったParksの代表作のテーマとして繰り返し取り上げられている。本発表では、Parksの作品に見られるリンカーンのイメージの反復という手法について、主に歴史表象と演劇、Parksの作家としての現代的位置付けという観点から考察する。

The America PlayおよびTopdog/Underdogでは、「大統領エイブラハム・リンカーンの扮装をする黒人」というモチーフが散見する。黒人女性作家であるParksによって「黒人がリンカーンを演じる」という行為が強調されているこのモチーフからは、「国家」や「歴史」の表象における「人種」という問題を可視化させようとするParksの政治的な戦略がうかがえる。これによりParksが試みるのは、ひとつには、白人社会とその歴史の中で周縁化されてきた黒人の位置を演劇的に語り直すことであり、同時に、「歴史」それ自体が創作的なものであること、それゆえ「歴史」は不安定で更新可能な物語であるということを演劇という表象媒体の中で提示することでもある。「黒人の歴史」の表象に少なからず関心を寄せながらも、「歴史」の表象のあり方それ自体をパフォーマティヴなものとして示すことによってParksは、「黒人作家」が語る「黒人の歴史」も「正当な歴史」ではなく、創意や想像によって描かれ変容していくものであることを示している。このことは、「黒人女性作家」というParksの作家としての位置付けを複雑なものにしていると考えられる。

以上のことから、この発表では、The America PlayおよびTopdog/Underdogの2作品の戯曲テクスト及び劇作法を検討し、「黒人のリンカーン」というモチーフの反復に見られる政治的・芸術的戦略を明らかにする。その上で、これら2つの戯曲を通して見られる作者の二重の位置性 ―「黒人女性作家」というアイデンティティへの同化と差異化―の問題をできる限り詳細に浮かび上がらせ、ポストコロニアルの現代におけるParksの作家的位置付けについて論じていく。なお、「リンカーン」の表象と劇作家の政治的位置という観点からParksの位置付けを検討するにあたり、劇作家Tony Kushnerが脚本を担当した2012年のアメリカ映画Lincoln(Steven Spielberg監督)にも言及できればと考える。Parksと同様Kushnerにとっても、「歴史」は重要なテーマのひとつであるが、自らのゲイ・セクシュアリティを表明しつつブロードウェイで活躍するユダヤ系白人男性Kushnerの描く「リンカーン」は、Parksの立場を検証する際のひとつの参照項となるだろう。