1. 1.『アメリカの没落』におけるエコローグ

1.『アメリカの没落』におけるエコローグ

谷岡 知美 広島修道大学

 

The Fall of America (1972) は、 Allen Ginsberg (1926-97) が書いた6年間の全米の旅を素材とする長編詩である。その副題として、Poems of These States 1965-1971 とあるように、彼が1965年から1971年まで行った、主として車を使った全米の旅を基盤として、時系列に沿って分けられた5部から構成されている。この全米の旅は、伝記作家Michael Schumacher によると、 “an ambitious project designed to update and rethink Whitman’s celebration of America” であった。したがってこの作品は、詩人が目にしたアメリカの風景、大自然の描写をとおして、国家としてのアメリカを強く意識し、祖国を再評価、つまり、あらためて祖国の本来の姿を追及した作品であると解釈できる。

また、このような自然描写を際立たせるように、作品にはヴェトナム戦争に対する反戦の態度も示されている。詩人のヴェトナム戦争への苦悩とアメリカの大自然の情景が、作品において交錯する。美しい自然の描写と、その背後にある、ヴェトナム戦争といった過酷な現実を合わせて描写した詩行には、自然対現実という構造が生み出す強靭な緊張感が生ずる。その緊張感は、作品における自然描写を、単に美しいアメリカの風景として終わらせないエネルギーを内包しているのである。このようなエネルギーを分析するためには、 Ginsbergの当時の自然に対する態度を理解する必要がある。1960年代のアメリカに対する彼の自然観は、「環境」(ecology) について詳細に述べた67年のインタビューで明らかとされる。このインタビューの中で彼は、機械化、物質化した当時のアメリカを嘆き、その環境を熟考する。彼の視線は「エデンの園」 (the Garden of Eden) にまで遡り、本来の原生の環境を重要視する。こうした彼の態度も指し示すように、The Fall of Americaの第四部の表題、 “Ecologues of These States 1969-1971” に用いられる、「エコローグ」(Ecologues) ということばは注目に値する。

本発表の目的は、The Fall of America における「エコローグ」の表象を明らかにすることである。1973年に全米図書賞を獲得したにもかかわらず、この作品が論じられることは多くない。それはひとつには、彼がインド旅行後に本作品を作詩し、仏教的マントラの要素が強く影響しているため難解である点が挙げられるだろう。それにもかかわらず、旅を通して本作品にちりばめられた、アメリカ全土の自然描写は見逃すべきではない。Ginsbergが “AFTER WORDS” において、「歴史叙事詩」(history epic) ということばに言及しているように、当時のアメリカを歴史の文脈において考察しようとしたことは明白である。さらに冒頭の Schumacherの指摘にあるように、 Whitman 等、アメリカ文学の伝統においても本作品は再検討される価値がある。アメリカ60年代の物質主義、ヴェトナム戦争、公民権運動、マスメディアの成長等混沌とした時代背景において、作品に描かれた自然描写に着目し、最終的には詩人の預言的想像力を持って描かれた自然の本質を探り、彼の言う「エコローグ」の意義を検討したい。