1. 3.“It Was a Long Speech for Her”― Hemingway作品における「インディアンの少女」の声

3.“It Was a Long Speech for Her”― Hemingway作品における「インディアンの少女」の声

田村 恵理 一橋大学(非常勤)

 

本研究では、HemingwayのNick Adams物語群に登場する「インディアン」の少女に着目し、“Ten Indians”、 “Fathers and Sons”、 “The Last Good Country”を中心としたBoston JFK図書館所蔵の草稿資料を根拠におきながら、これまでの分析傾向の問題点を指摘し彼女たちの読み直しを試みる。以下の三点から考察する。

I. 彼らの名前から

Hemingwayの短編群においてインディアンが登場する作品は多く、それらには登場人物に関して一貫性も見られる。興味深いのは、彼らの名前が我々に混乱を与える事である。例えば別の名を持つインディアンの少女が多くの批評家によって同一人物と捉えられる一方、同姓同名のインディアンの男が異なる作品で別人の様に描かれている。そこで彼らの名前について草稿調査をもとに構想の変遷を追い、Hemingwayがインディアンに関しては、キャラクターと、名前といういわゆる「言葉」との結びつきを意図的に固定化しすぎないようにしていたのではないかと提案する。

II. 二人の沈黙から

インディアンの少女Prudence Mitchellの名は、“Ten Indians”において言及される。出版版では彼女自身は登場しないものの、草稿のあるバージョンにおいて彼女はNickに向けて自分の言葉を語っている。しかしこれは発表されなかった。更にHemingwayは高校時代に学校文芸誌に発表した短編において、インディアンの男Billy Tabeshawに英語で饒舌に語らせている。しかし、作家活動を始めてから書かれた“The Doctor and the Doctor’s Wife”に登場する同姓同名のインディアンは、無口で英語も全く分からない存在という設定になっている。こういったインディアンの沈黙について執筆時期を意識しながら分析し、彼らと言葉との関係性をHemingwayがどうみていたかについて考察する。

III. 彼女を読み直す

Nick Adams物語群におけるインディアンの少女たちの持つ特異性は、性的な相手として常に白人男性を選んでいるという事だ。その為Nickとインディアンのガールフレンドとの関係は、白人男性からの彼女たちへの搾取という、典型的なポスト植民地理論的見地から意識され続けている。しかし“Ten Indians”の未発表の草稿バージョンの1つにおけるインディアンの少女の言葉からは、彼女が同属のインディアン社会の男性からの逃げ場をNickに求めていた事が想像される。この点についてこれまで批評上見逃されてきた事を指摘し、その見地からインディアンの少女の読み直しを試みる。