1. 3.ジェイソンが受け取った手紙

3.ジェイソンが受け取った手紙

同志社大学(院)  山本 義浩

 

William Faulknerの長編小説The Sound and the Furyの第三章におけるCompson家の二男Jason Compsonによる一人称の語りは、第一章や二章における場面転換の複雑さや文体の難解さに比べれば非常に明快なものと言える。その理由の一つとして、Faulknerが“The Appendix Compson: 1699-1945”において「論理的、理性的で自制心がある」と性格付けしたJasonにとって、過去よりも現在の事態にどう対処するかという実際的な問題が彼の関心を占めていることが挙げられる。だが第三章で実際にJasonが関与する物事はそう単純なものではない。情報通信技術が大きな役割を果たすこの章において、電報を利用した綿相場の取引に比べ、初めに郵便局で受け取った4通の手紙はほとんど注目されていないようである。本発表では、それらの手紙が後の展開にどのような影響を与えているのか、さらに第三章と作品全体との関わりにおいてどのような役割を果たしているのかを論じる。

日中Jasonは雑貨屋の店番をしながら、度々電報局に足を向けては綿相場の動向を窺ったり、CaddyがMiss Quentinに送った金を着服するための細工を行ったりと実に忙しい。父と長男を亡くした一家の家長として生活を支えるため雑貨店で働き家族の世話を焼くと同時に、彼は自分の利益のために様々な活動を行っている。その中で注目すべきは、James A. Sneadが指摘するように、この章の記述が「交換」に極めて高い関心を払っているということである。Jasonは自らの利益を増大させるべく、綿相場の情報を電報で提供するブローカーに金を支払い、Caddyが送った小切手を贋物とすり替えることで母の目をごまかし、Miss Quentinを騙して彼女宛ての郵便為替を換金する。Caddyによって将来が損なわれたことへの贖いであるとして着服を正当化する彼は、貯め込んだ大金を最終的にMiss Quentinに持ち去られることになるが、Olga W. Vickeryがthe double ironyと呼ぶこのような事態は何故起こってしまったのか。Donald M. Kartiganerは本質的な利益を省みないビジネスマンとしての欠点をJasonに見出しているが、彼の失敗は何に由来し、どのような過程を経て生じたのか。

Jasonの未来を暗示するのは、彼が焼き捨てた一枚の手紙である。Miss Quentinが母からの送金を受け取りに店へ押しかけてきたことが影響し、彼は市場の予測を伝える電報を受け取り損ねて綿相場の取引で損失を出す。これはLorraineの手紙を焼きMiss Quentin宛てのCaddyの手紙を開け損ねることで生じた事態だと言える。女たちの要求を拒み手紙や小切手を介して過去と現在の時間的な差異を利用する「交換」によって利益を得ようとするJasonは、その利益がもたらすはずの未来を得ることに失敗するのだ。Lorraineからのメッセージとそれに対するJasonの対応を始め、手紙が彼の行動に与える影響とその意味を明らかにしたい。